『マルモイ ことばあつめ』の「ホットク」 最高気温が氷点下になることも珍しくない冬の韓国・ソウル。そんな寒い日に食べたくなるのが、韓国屋台の定番おやつ「ホットク」です。
日本でよく食べられているおにぎりは韓国にもあって、「拳のような形をしたご飯」という意味で、「チュモッパッ」と呼ばれています。その名の通り、ふりかけや刻みのり、たくあん、ゴマなどを混ぜ込んだご飯を、ぎゅっと拳のような形に握ったもの。家庭で作って食べるほか、食堂や焼き肉店、居酒屋などのサイドメニューとしても人気です。1980年に発生した「光州事件」を描いた映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」(2018年日本公開、チャン・フン監督)では、主人公のタクシー運転手がチュモッパッを一口食べ、複雑な表情を浮かべていました。
第7回 『タクシー運転手 約束は海を越えて』の「チュモッパッ」
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25年以上にわたり、軍事政権が続いていた韓国。1980年5月、全斗煥政権下で全国に戒厳令が広がる中、韓国南西部の都市・光州で、民主化を求めて市民や学生らが立ち上がりました。日本で言うところの「光州事件」です。市民らと軍による抗争は10日間に渡って続き、デモ参加者は20万人にまでふくれあがったといいます。軍はこれを鎮圧しようと市民らに向かって銃を撃ち放ち、最終的に300人以上の死者・行方不明者を出す大惨事となりました。
この事件を描いた映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」が2017年、韓国で公開されました。光州に潜入したドイツ人記者とそれを助けたタクシー運転手の実話をもとにしたストーリーで1200万人を動員する大ヒットに。韓国のトップ俳優、ソン・ガンホが、人間味あふれるタクシー運転手マンソプを見事に演じています。
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ソウルでタクシー運転手をしていたマンソプは、「通行禁止時間までに光州に行ったら、大金を支払う」という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて光州を目指します。当時、韓国では秩序維持の名目で、深夜の外出が禁止されていました。さらに、厳しい検閲が敷かれ、メディアは光州で起こっている惨劇を伝えることなく、単に「暴徒化した学生や市民による内乱」とする軍の発表をそのまま報じていたのです。
光州で何が起こっているのかを知らないまま、現地に向かうことになったマンソプ。約束のタクシー代を受け取りたい一心で検問を切り抜け、時間ギリギリに到着。しかし、そこには市民らが血を流して倒れている壮絶な光景が広がっていました。
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マンソプは「危ないからソウルに戻ろう」とピーターを説得しますが、彼は取材を辞めようとしません。そこで、ピーターを光州に残し、娘の待つソウルに帰ることを決意。その帰り道に立ち寄った食堂で、事件について誤った情報が広がっていることを目の当たりにします。そして、マンソプは出されたチュモッパッをほお張り、複雑な表情を浮かべるのでした。
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この時、マンソプが食べていたのは白いご飯を握ったものでしたが、チュモッパッといえば、ふりかけや刻みのり、たくあん、ゴマなどが混ぜ込まれたご飯を握ったものが定番です。日本と同様、家庭で作って食べることが多いですが、最近はラーメンなどを扱う軽食店などで、客が自ら使い捨ての手袋でチュモッパッを作って味わうというメニューも人気だそうです。
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また、コンビニでは日本と同じく、個包装された三角形のおにぎりが売られていますが、こちらは「サムガッキムパッ」(三角海苔巻き)と呼ばれています。中にプルコギ(牛焼肉)やタッカルビ(鶏肉の鉄板焼き)などの具材が入ったものや、ご飯がビビンバやキムチポックムパプ(キムチチャーハン)になっているものなど、韓国ならではの味付けが多く見られます。
最近は、ご飯に混ぜるだけでチュモッパッが完成する「チュモッパの素」が日本でも売られています。マンソプが複雑な表情で味わったチュモッパッを家庭で作ってみるのもいいかもしれません。
【作品情報】
「タクシー運転手 約束は海を越えて」
製作年 2017年
製作国 韓国
監督 チャン・フン
出演 ソン・ガンホ、トーマス・クレッチマン、ユ・ヘジン、リュ・ジュンヨルほか
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発売元 クロックワークス
販売元 TCエンタテインメント
価格 4180円(DVD)、5280円(Blu-ray)