読んでたのしい、当たってうれしい。

現場発 Kカルチャーの最前線から

韓国の新常識 MBTI診断

記者会見するミン・ヒジンさん=朝日新聞ソウル支局 太田成美記者撮影

 韓国のガールズグループNewJeans(ニュージーンズ)が6月に日本で初の単独公演をしたニュースは、韓国でも大々的に報じられた。HANNI(ハニ)が1980年代のヒット曲「青い珊瑚礁」を歌ったソロステージの動画が瞬く間に広まり、松田聖子への関心まで高まっている。

 NewJeansの所属事務所ADOR(アドア)と親会社HYBE(ハイブ)の紛争がNewJeansの日本デビューに影響を及ぼすのでは、と心配したが杞憂だった。独自の魅力を惜しみなく発揮して日本でもファンの心をわしづかみにした。

 ところで、NewJeansの生みの親、ADOR代表のミン・ヒジンさんがHYBEに対して和解の意思を示した記者会見で、「私はENTPです」と発言したのはご存じだろうか?

 続けて「是々非々を一つ一つ判断したい」と言った。「ENTP」というのは「MBTI」と呼ばれる性格検査の結果のこと。 MBTIは心理学者ユングのタイプ論をもとに開発され、世界中で使われているが、韓国ではMBTIをまねて手軽に楽しめる「16Personalities」がネットで無料で使えるので大流行につながった。「16Personalities」は正式のMBTIではないが、ここでは「MBTI診断」とする。

 

 

 「16Personalities」はネット上で質問に答えていくと、自分の性格タイプを教えてくれる。「内向的(I)/外向的(E)」、「感覚的(S)/直観的(N)」、「論理型(T)/感情型(F)」、「判断型(J)/知覚型(P)」の四つの指標で全部で16通りに分かれる。

 韓国ではMBTI診断について、もはや知らない人がいないほど定着した。ミン・ヒジンさんの「ENTP」は、論理的な思考が得意で自分の考えをはっきり伝えるタイプ、とされる。韓国の記者の多くはミン・ヒジンさんが「私はENTPです」と伝えるだけで、どんな性格だと言っているのか理解できるのだ。

 同じ人でも診断するタイミングで結果が変わることがあるが、私の場合は2度やって2度とも「INFP」だった。「静かそうに見えるかもしれないが、心の中は情熱であふれている」のだそうだ。韓国にいるとあまりにもよく聞かれるので、覚えるようにした。

 韓国では、男女が紹介によって出会うことを「ソゲティン」と言う。「ソゲ」は韓国語で「紹介」という意味だ。最近はソゲティンで会って真っ先に相手に尋ねるのが、MBTI診断の結果らしい。相手との相性を探るうえで、あるいは相手との話題を考えるうえで参考にするようだ。

 就職の面接でMBTI診断の結果を聞かれることもあるという。ただ、正直に答えるよりも、どう答えたら有利かを見通して答える可能性があり、面接の判断材料に用いるのは不適切という指摘もある。

 日本でもK-POPアイドルの影響なのか、若者の間で広まっている。最近、日本で韓国語を学ぶ大学生たちに会う機会があったが、みんなMBTI診断の結果を知っていた。「推し」がYouTubeでMBTI診断について語っているのを見て、自分も試し、推しとの相性を調べたという学生もいた。Newjeansの公式YouTubeチャンネル「Jeans’ ZINE」でもメンバーのMBTI診断について語り合う回があった。ちなみに「青い珊瑚礁」を歌ったHANNIは私と同じ「INFP」だった。

 

 

 話は少し飛ぶが、今月、韓国の富川(プチョン)国際ファンタスティック映画祭を訪れた三谷幸喜監督は、ベテラン監督が映画づくりについて語る「マスタークラス」で司会者に「話を聞いているだけで監督のMBTIが何か分かる気がする」と指摘されて、「MBTIって何?何?」と戸惑っていた。韓国では新常識となっているが、日本ではまだまだ若者を除くと知らない人が多いようだ。

 

 成川彩(なりかわ・あや)

  韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。

 ◆Kカルチャーの旬な話題を毎月第二土曜に配信します。

 

現場発 Kカルチャーの最前線からの新着記事

  • 関東大震災の虐殺事件を描くドキュメンタリー映画が韓国で公開 戦争について思いをはせ、考える機会が多い8月。韓国ではドキュメンタリー映画「1923関東大虐殺」が公開されます。

  • 世界に広まるキンパ きっかけは「ウ・ヨンウ」 「キンパ」といえば韓国の海苔(のり)巻きだ。日本のおにぎりのような日常食でキンパ屋さんはどこにでもあり、コンビニでも売っている。そのキンパが世界に広まっている。きっかけの一つはドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(以下「ウ・ヨンウ」)だ。

  • 昭和歌謡にトロット、「日韓歌王戦」に釘付け 日本と韓国の歌手が歌で競い合う「日韓歌王戦」に釘付けになった。韓国のMBNの番組で、10%を超える高視聴率を記録。日本の歌手が韓国のテレビで歌うこと自体が珍しかったが、昭和歌謡を韓国の歌手が、韓国版演歌とも言われる「トロット」を日本の歌手が歌うなど、これまでにない試みで注目を集めた。

  • K-POP界を席巻する「栗羊羹」 韓国で「栗羊羹」が旋風を巻き起こしている。食べる栗羊羹ではなく、曲のタイトルだ。韓国の発音では「パムヤンゲン」。ワルツ風で一度聴くと耳から離れない中毒性のあるメロディーだ。歌手BIBI(ビビ)が愛らしくささやくように歌う。

新着コラム