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私の描くグッとムービー

ヒグチユウコさん(画家)
「世にも怪奇な物語」(1967年)

悪魔の化身、怖いけれど美しい

 ヒグチユウコさん(画家)「世にも怪奇な物語」(1967年)

 

 大好きな世界観です。エドガー・アラン・ポー原作の三つの怪奇小説を、伊仏の3人の監督が撮ったオムニバス。10代の頃、テレビをつけたら放映していて。少し見て、いいなと思いすぐ録画しました。以後、何度も何度も見ています。

 もともとホラーが好きなのですが、一番印象的だったのが最終話「悪魔の首飾り」に登場する白い服の少女。アルコール中毒で落ちぶれた英国俳優トビーが、仕事でイタリアに来るものの不安からお酒を飲み続ける。死の世界に取り付かれている彼の前に、死に神の幻影として姿を現すのがこの少女です。顔は白塗りで目の縁だけ真っ赤で、怖いけれど、美しい。死から最も遠い場所にいるような美しい少女が、悪魔の化身という設定がすごく好きなんです。私が描く少女は、かなりの割合を彼女が占めていると思う。

 トビーを演じる俳優の演技もすごい。衰弱し悪魔の話になると身を乗り出す姿など迫力があります。フェリーニの映画に出てくる役者は、皆魅力的ですよね。

 当時はビデオを一時停止しては好きなシーンを必死で描きとめました。私は小さい頃から、実際には体験できないことでも絵にすることで消化しているところがあります。行きたい外国や飼いたい動物など、描くと少し自分のものになった、という満足感が幸せなんです。この映画の幻想的でダークな世界はなかなかうまく描けなかった。だけど、私の描く作品世界とどこか通じるものがあるかもしれません。

聞き手・中村茉莉花

 

  監督=ロジェ・バディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ
   製作=仏・伊
   出演=テレンス・スタンプほか
ひぐち・ゆうこ
 著書に「ヒグチユウコ作品集」(グラフィック社)など。絵本「ふたりのねこ」(新装版、祥伝社)を12月1日に発売。
(2014年11月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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