つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
株取引に勝つために、「誰よりも速い回線をつなげば、誰よりも早い取引ができる」と考えたトレーダーが、めちゃくちゃ長い直線の光回線をアメリカに引こうとする話です。主人公を演じるジェシー・アイゼンバーグが元々好きで、良さそうだなと思って見たのがきっかけです。
この映画を見た後に、「チ。」という漫画を描いたんですが、多少なりとも影響を受けていますね。主人公の超天才のいとこが、自分にもしものことがあったときに作動する「デッドマン装置」を仕込んでいたことがわかるシーンがあって、これはうまいなと思いました。ここまで先を見越してたんだ、と。キャラクターがデッドマン装置を仕込む発想は「チ。」で使わせてもらいました。
演技もセリフも全て好きですが、この映画の白眉は、ラストの展開。病気で死にそうな主人公がいとこに、もしミリ秒しか人生がないとしたら、どんな命なんだろう、みたいな質問をするんです。いとこは「わからない」と言ってから、「100年生きた人と同じくらい長く感じられるよ」と答える。人生をかけてやったことが全て打ち砕かれ、しかもそのやっていたこと自体も別に褒められたことでもない、そんなことに命をかけてしまった人を肯定する優しいセリフだと感じました。その後、映像がスローモーションになって、水の雫が落ちるスピードが遅くなる。時間というものは、量的なものではなくて質的なものなんじゃないかと思わせてくれました。イラストに描いたのは羽ばたいているハミングバードで顔が隠れた主人公です。
(聞き手・宮嶋麻里子)
監 督=キム・グエン
製作国=カナダ、ベルギー
出 演=ジェシー・アイゼンバーグ、アレクサンダー・スカルスガルドほか うおと 1997年生まれ。
手塚治虫文化賞マンガ大賞を2022年に受賞した「チ。-地球の運動について-」(小学館)は、アニメ化が決定している。 |