つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
世界随一の天文観測地である南米チリのアタカマ砂漠で星を探す人々と、独裁政権下で行方不明になった人たちの遺骨を捜す人々。その光と影が時空を超えて交差するドキュメンタリーです。宇宙の美しさに圧倒されたり、過去の悲惨な出来事に深い苦しみを感じたりしましたが、最後に救いに至る素晴らしい作品でした。
一番印象的だったのは、「現在は存在しない」という天文学者のガスパール・ガラスさんの一言。天文学上、天体からの光が過去なのは理解できるけれど、今見ている世界もすでに過去だと言う。じゃあ現在はどこにあるのか? 「現在が存在するのは自分の意識の中だけ」だというガラスさんの言葉が新しい感覚を開いてくれた気がして。瞬間瞬間、自分が感じていることに心のピントを合わせることで何かが変わっていく。
カルシウムの話も衝撃でした。電波望遠鏡で星々からの放射線を分析するとカルシウムが最も強く出ていると。人間の骨もカルシウムでできているから、はるかかなたの星も、僕たちの存在も同じなんだなって。
強制収容所に収監されていた人たちがチリの美しい星空を眺めることで希望を失わずにいられたように、どんなに現代社会の闇が深まろうとも光を見続けることで、内なる自由を失わずにいられるのではと思いました。
映画からインスピレーションを得て描いた内なる宇宙のイメージです。絵を見ることで「現実の世界」がより豊かになっていくことを願って。
(聞き手・片山知愛)
監督・脚本=パトリシオ・グスマン
製 作 国=フランス・ドイツ・チリ
shunshun(しゅんしゅん)
高知生まれの東京育ち。建築設計士を経て、細いペンで描く素描家に。2012年に千葉から広島へ移住。「ツバキ文具店」(小川糸著)の装画など。 |