つめをぬるひとさん(爪作家)
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
「アフター・ヤン」(2021年) 「テクノ」と呼ばれる人型ロボットのヤン、中国系の養女・ミカ、養父母が暮らす近未来が舞台です。
このアニメーション作品は、ハリネズミがクマのお友だちのところへお茶しに行く話。ストーリーだけ見ると、とても簡潔で直線的です。
だけど、クマに会った後、画面いっぱいに白い馬が浮き上がって終わってしまう。わかりやすいストーリーですが、「何でこの馬出てきたの?!」って、その終わり方にびっくりしました。でもそれはきっと、道中で起こったことが頭の中に残っているからだと思ったんです。簡潔な話の中で、複雑に風景が残り続けるところが魅力に感じました。それを表したくて、出合った風景を一枚のイラストにしました。
一見繊細な印象の作品ですが、急にミミズクが出てくるなど、色のトーンや音楽も含め抑揚があるからこそ、見ていて飽きません。モノクロだけでそれを表現したいと思い、繊細で均一な表現ができる万年筆と、直線しか引けず線の太さに差が出やすいカリグラフィーペンの2本で仕上げました。やわらかな世界と直線的な世界が同居するといいなと思ったんです。
この作品は切り絵でできていて、美術館で絵を見たときのような感覚にもなります。表現そのものは現実離れしていますが、作品から受ける不安な気持ちや目に焼きついた情景を引きずる感覚自体にはリアリティーがある。そういう映画にひかれることが多いですね。
私自身、一度映画を見るとその作品の感覚を思い出し、しばらく引きずるところがあるんです。この作品は、そんなところともリンクしていることに気がつきました。
(聞き手・深山亜耶)
監督=ユーリー・ノルシュテイン
製作国=ソ連
脚本=セルゲイ・コーズロフ 声の出演=アレクセイ・バターロフほか すずき・ちかこ
1983年生まれ。代表作に「信仰」(文芸春秋、村田沙耶香著)、「とんこつQ&A」(講談社、今村夏子著)の装丁など。 |