「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
米アカデミー賞にノミネート後、ヘルシンキの映画館で3月の公開初日に見ました。約3時間の長編映画でしたが退屈さは全くなく、見た後も余韻に浸るような心地よい物語でした。
妻の死後、喪失感を抱えて生きる演出家の家福と、専属ドライバーのみさき。共に傷ついた過去がありながら、徐々に心を通わせていきます。
家福が手がける広島の演劇祭では、役者たちが多言語や手話でセリフを語るシーンが印象的でした。言葉が分からなくてもコミュニケーションが成立したり、日本語同士なのに意思疎通できなかったり。フィンランドに14年暮らす私にも、この感じは分かるなあと共感しました。
どのシーンも日本の風景が美しく、外国の監督が撮影したかのような独特の印象を受けました。突然雪景色に変わったときはフィンランドに通じると感じ、より物語に引き込まれました。出身地の東京ではなじみはなかった分、フィンランドに来てから毎年雪が新鮮で。美しくもあり怖さもあって、でも優しく包み込んでくれる。物語でも雪は2人の過去の悲しさや苦しみを表し、やがて春が訪れると解けて昇華されていく、そんな心象風景を象徴している気がしました。それまでのシーンが広島の瀬戸内海付近が舞台だったからこそ、雪がより印象的に見えたのかもしれませんね。
ラストではみさきのほおの傷も目立たなくなり、時を経て前向きに踏み出したように見えました。人間のさまざまな感情が交錯する中、自分と重ねる部分も多々ありましたね。折に触れて見返したい、大切な作品です。
(聞き手・片山知愛)
監督=濱口竜介
原作=村上春樹
脚本=濱口竜介、大江崇允 出演=西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいかほか ほし・さわこ
1986年東京生まれ。2008年からフィンランドに拠点を移す。マリメッコ、ユニクロなど国内外のブランドにデザインを提供。 |