「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
江口カンさんが手がけるCMなどの映像作品が好きで、映画監督をされたと聞いて「これは見に行かねば」と。映像を作る人が映画を撮るとどんな感じになるんだろうと、一つの作品を見に行くような気持ちで。前情報は入れずに「小倉が舞台の競輪の物語」ぐらいのわずかな情報だけで映画館に行きました。
主人公の濱島は40歳目前の元プロ野球選手。自堕落な生活を送る中、競輪学校へ入学します。周りは若者ばかり、体力的にも精神的にも厳しい状況下で試練に立ち向かうまさに崖っぷちの物語。濱島と年齢が近いせいもあり、どこか自分と重ねて見ていましたね。
何度も挫折を味わった濱島が、気持ち新たに自宅の和室に自転車を設置し、トレーニングのため必死にこぐシーンが印象的でした。目標に向かってもくもくと練習や準備をする姿って、表には見えない地味な部分ですよね。その姿がチラシやパンフレットに使われているんです。競輪の話って知らないと分からないような、和室でこぐ姿をあえて選んでいるのは、江口監督や制作側にとっても象徴的なシーンなのではと解釈しました。
傘を作る仕事を続けて17年。始めた頃は個人事業主だったので、まさに倒れるまで自転車をこぐような思いで全てを1人で担っていました。だんだんと認知してもらえるようになり、スタッフも増え、各地で展示会を開催するようになりましたが、仕事の悩みはつきないもの。濱島が葛藤しながら生きる姿に「自分だけじゃない」「どうにかなる」と励まされました。
(聞き手・片山知愛)
監督=江口カン
脚本=金沢知樹
出演=安部賢一、福山翔大、モロ師岡、博多華丸、林田麻里、 船崎良、伊藤公一、吉澤尚吾ほか イイダ ヨシヒサ
オリジナルテキスタイルをデザインし、傘の受注・販売を行う「イイダ傘店」主宰。4月8~12日、アートスペース・テトラ(福岡市)で受注会開催。 |