「五感で楽しめる」県立美術館 2015年4月24日(金)、「日本一のおんせん県」を名乗る九州・大分に大分県立美術館(OPAM)が開館します。長崎県美術館(2005年)、青森県立美術館(2006年)以来、9年ぶりに新設される県立美術館です。
東京都練馬区下石神井の住宅街の一角に、ちひろ美術館がオープンして40年近くが経ちます(1977年開館時は、いわさきちひろ絵本美術館)。生前ちひろが暮らしていた自宅跡地に建つ美術館には、左利きだったちひろが、右側から外光が入るように机その他を配置したアトリエも復元されています。しゃれたデザインの建物ですが、中へ足を一歩踏み入れると、ちひろ作品に通ずる柔らかなあたたかさを感じられます。全国から、いわさきちひろファンがこぞってこの地を訪れる理由も分かります。
そんな、ちひろ美術館のシンボルマークを担当したのが、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのグラフィックデザイナー佐藤卓氏です。デザインに精通している方でないと佐藤卓氏の名前を耳にしただけでは、どんな人なのか見当もつかないかと思います。しかし「明治 おいしい牛乳」「ロッテ キシリトールガム」などの商品ならすぐ頭に浮かぶはずです。我々の身の回りにある商品デザインから、NHK Eテレ「デザインあ」の総合指導も行っている日本を代表するデザイナーのひとりです。ちなみに以前このコラムでも紹介した六本木の21_21 DESIGN SIGHTのディレクターも務めています。
ちひろ美術館のシンボルマークは「ひとみ」をモチーフにしているそうです。小さな中央の円が、上下に守られているように支えられています。この小さな円はひとみに映る子どもの姿を表しているそうです。そしてそれは紛れもなく、ちひろが見守る子どもの姿そのものです。ちひろ美術館のある練馬区に生まれ、いつも友達と外で遊び回っていた少年時代の佐藤卓氏もまた親御さんはじめ、地域の大人たちに見守られながらすくすく育っていったのでしょう。
武蔵野の豊かな自然の中で昆虫採集に夢中になった少年時代があるからこそ、ものに物語を付与するデザイナーとして最前線で活躍なさっているのです。それはまさに、ちひろがアトリエからいつも四季折々に移り変わる自然に常に目をやりながら、作画にいそしんだ姿と重なります。万人に受け入れられる作品を生み出すためには、自然の中にある、ものの本質を見極める力が欠かせないのです。
■佐藤卓デザイン事務所
http://www.tsdo.jp/
シンボルマークだけでなく、ちひろ美術館の建物にも注目です。設計を担当したのは日本のみならず、世界にその活躍の場を広げている、建築家の内藤廣氏です。茨城県天心記念五浦美術館、牧野富太郎記念館から、和菓子のとらやに至るまで現在でも幅広く活躍されています。また、ちひろ美術館開館20周年を記念し、1997年にオープンした安曇野ちひろ美術館も内藤廣氏が手掛けたものです。都内の住宅地の中に建つ、ちひろ美術館と雄大な自然の中に建つ、安曇野ちひろ美術館。ひとりの建築家が、ひとりの作家のために、全く環境の違う場所に作った建物を比べてみるのも楽しいかもしれません。 |
ちひろ美術館・東京
〒177-0042
東京都練馬区下石神井4-7-2
開館時間:10:00~17:00
(入館は16:30まで)
休館日:毎週月曜日(祝休日は開館、翌平日休館。GW・8月10~20日は無休)
電話:03-3995-0612
URL:http://www.chihiro.jp/
【筆者プロフィール】
中村剛士(なかむら・たけし)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆なども。
http://bluediary2.jugem.jp/