「五感で楽しめる」県立美術館 2015年4月24日(金)、「日本一のおんせん県」を名乗る九州・大分に大分県立美術館(OPAM)が開館します。長崎県美術館(2005年)、青森県立美術館(2006年)以来、9年ぶりに新設される県立美術館です。
観たい時に、いつでも常設展示として観られることって絵画の世界では実は容易なことではありません。例えば日本画や浮世絵などは保存の観点から年間に短いものだと数週間しか公開されないものもありますし、修復に入り何年もお披露目されない作品もあります。
今回紹介する「ムットーニ」は、世田谷文学館(京王線「芦花公園」駅、徒歩5分)に行って200円※1を払えば展示替期間を除き、いつでも観られます。
ところで、「ムットーニ」をご存じでしょうか。ムットーニとは作家名でもあり、彼の作品全体を指し示す名称です。時としてもっと広範囲なものを表す名前として用いられます。実体はありますが、その世界観は無限の広がりを有しているひと言では言い表せない存在です。
本名・武藤政彦(ムットーニは外国人でなく日本人です!)が、作り出す「ムットーニのからくり劇場」(「おはなし玉手箱」)を敢えて言葉で説明するならば、文学作品の一場面をハンドメイドの箱(小さな舞台)と人形、照明や音楽で独特の雰囲気で表現する芸術作品となります。
しかし、他の芸術作品同様にたとえ冗舌なストーリーテラーが百万言を尽くしその魅力を語ったとしても、本物を観ない限りは実感としてそれを感じることは不可能です。ムットーニに関してはなおの事。わずか数分の小さな世界ですが、一度その魅力にはまると病みつきになります。そこには絵画や彫刻よりもはるかに多くの物語性が詰め込まれているのです。
夏目漱石「夢十夜」をもとに作られた「漂流者」や、音楽が世界観に一層魅力を添える「THE SPIRIT OF SONG」といった作品を、基本的に常に鑑賞することができます(午前10時~午後6時の間、毎時30分から)。何度読み返しても常に新鮮な感動のある小説と同じく、ムットーニの作品も何度鑑賞しても飽きるどころか、よりその魅力に引きこまれてしまいます。
上等な短編小説を愛でるように、ムットーニ作品に会いに来る人が絶えません。基本的に7つもの作品を常に楽しめるのは、世田谷文学館の他にはありません。新宿からわずか20分の場所にこんな素敵なミュージアムがあるのです。早速明日にでも出かけてみませんか。
※1 一般200円、高校・大学生150円、小・中学生および65歳以上100円(各種割引制度あり)。
■世田谷文学館
http://www.setabun.or.jp/
■ムットーニ オフィシャルウェブサイト
http://www.muttoni.net/
世田谷文学館の前には池があります。かつてこの場所には大きな邸宅があったそうで、その家の門と庭の一部が今でも残っています。池には色とりどりの錦鯉たちがのんびりと泳いでいて、その光景はとても都心にあるミュージアムの庭先とは思えません。鯉を目当てに館を訪れる人もいるほど隠れた名所になっているようで、運がよければ近所の子どもたちにも大人気の、鯉のエサやりタイムに出会えるかもしれません。 |
世田谷文学館
〒157-0062
東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間:午前10時~午後6時
※入館は午後5時30分まで
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し翌日休館)・展示替期間・年末年始
電話:03-5374-9111
URL:http://www.setabun.or.jp/
【筆者プロフィール】
中村剛士(なかむら・たけし)
Tak(タケ)の愛称でブログ「青い日記帳」を執筆。展覧会レビューをはじめ、幅広いアート情報を毎日発信する有名美術ブロガー。単行本『フェルメールへの招待』(朝日新聞出版)の編集・執筆なども。
http://bluediary2.jugem.jp/