森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
青森港を望む公園の一角。足に赤い毛糸やリボンを絡ませた、少年と少女のブロンズ像が海を見つめて立っている。モチーフは、太宰治の私小説「思ひ出」だ。市内の旧制中学に通っていた頃、港の桟橋で青函連絡船を眺めながら運命の人と結ばれる「赤い絲」について弟と話したという。実は、函館港の公園にも同じ像が。津軽海峡を挟んで二つの像は向かい合う。
両港は1908年に青函連絡船が就航し、88年に廃止されるまで延べ1億6千万人の乗客でにぎわった。青函トンネルが開通した後、2000年には旅客フェリーが運行開始。今も、海峡を旅行者や住民が行き交う。
像は初め、1989年に青森市だけで企画された。当時市職員で、文学好きだった古山(こやま)善猛さん(68)の発案だったが、形にならないまま数年が過ぎた。2001年、青森・函館の交流事業「青函ツインシティ」の会議で函館市職員と太宰の話で意気投合。二つの「赤い絲」像を両港に建てれば、海峡を越え、青函の心と記憶をつなぐ物語になると訴え、話は進んだ。09年、全国の野外彫刻を数多く手がけた彫刻家峯田義郎さん(81)に依頼。「風を受けて立つイメージ」を託した像が完成した。
二つの像を訪ねるなら、1日に16便あるフェリーがおすすめだ。「海峡の眺めと船旅の情緒を味わってほしい」と古山さんは話す。
(井上優子)
青函ツインシティ 1988年の青函トンネル開通の翌年に、青森市と函館市は、文化、観光、スポーツ、経済交流をさかんにしようと「ツインシティ(双子都市)」の盟約を締結した。青森ねぶた祭と函館いか踊りの相互交流や公立大学の連携などが続いている。2010年に新幹線の新青森駅、16年には新函館北斗駅が開業し、約1時間で行き来できるようになった。 《作品へのアクセス》それぞれ、青森駅から徒歩約10分、函館市電「大町」から徒歩約7分。 |
青森港で、青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸(TEL017・735・8150)が公開されている。約5300トンの船の地下1階から上は4階まで見学出来る。貨車48両を積み込んでいた車両甲板や操舵(そうだ)室は雰囲気満点だ。午前9時~午後7時。500円ほか。
船から徒歩10分の青森魚菜センター(TEL763・0085)では、「のっけ丼」が味わえる。食事券を買って白飯や食材と交換。市場を巡って、ホタテやマグロを乗っけてもらおう。午前7時~午後4時。券は5枚650円~。(火)休み。