森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
JR名古屋駅から、サラリーマンが行き交う地下通路を歩くと、一匹の黒ネコが壁に現れた。さらに行くと、ルーセントタワーにつながる約300メートルの通路の壁一面に、ネコが旅する世界が黒一色で描かれている。
テレビ塔が立つ名古屋市街からはじまり、草原、海、砂漠など九つの場面が次々に展開する。場面ごとに緑、赤、青などのライトが投影され、まるで影絵の劇を見ているようだ。
作品は、2007年の同タワーの開業に合わせて描かれた。駅から地下通路でつなぐ計画だったが、面積が狭く店舗を設置出来なかった。アート部門を手がけたアートディレクターの清水敏男さん(64)は「当時、あの辺りは人通りが少なくて寂しかった」と振り返る。「明るい気持ちで歩ける場所に」と、空間演出を得意とするアーティスト、近森基(もとし)さん(45)に依頼した。
制作期間は約1年。近森さんは「ネコが舞台回しの旅の世界で、ひとときの非日常感を楽しんでもらえたら」と、ストーリーを考えた。場面の展開は絵巻物からヒントを得た。
その後10年が経ち、作品の状態を確認したが破損は見つからなかった。大切に扱われているのがうかがえる。いつも通路を利用するという30代の女性は「作品があるのと無いのとでは全然違う。歩きやすいです」と話していた。
(西村和美)
名古屋ルーセントタワー 高さは約180メートル。延べ床面積は約11万5千平方メートル。40階まであるフロアには、約70社が入居する。眺望抜群の最上階には、ラウンジ「THE ONE AND ONLY」も。地下1階にはみそ煮込みうどんの「山本屋本店」や名古屋生まれの喫茶店「コメダ珈琲店」などの飲食店が入る。 ビルには五十嵐威暢の彫刻「こもれび」、ジャハンギールのレリーフ「ルーツ」など七つのアート作品が設置されている。 《アクセス》JR名古屋駅から徒歩5分。 |
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ルーセントタワーから徒歩6分。ノリタケの森クラフトセンター(TEL052・561・7114)では、洋食器ブランド「ノリタケ」の製造工程が見学できるほか、ミュージアムで明治から昭和初期にかけて作られた「オールドノリタケ」などが見られる。入場料500円。
JR名古屋駅にあるカフェ ジャンシアーヌ(TEL533・6001)では、「ぴよりん」(写真、320円)が人気。名古屋コーチンのタマゴを使ったプリンをやわらかなババロアで包んだ。