森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
「こだまでしょうか」。東日本大震災後に流れたCMで注目された童謡詩人、金子みすゞ(1903~30)。その故郷、山口県長門市仙崎を訪れた。
日本海に面した漁港から小道を入ると、巨大なモザイク画に目を奪われた。観光ホテルの壁面に描かれた絵は、縦5メートル、横10メートル。向かって右側から見ると、王子山から望む仙崎の景色と20歳のみすゞ=写真左。左側から見ると、青海島の奇岩「変装行列」の夕景に佇(たたず)む女学生時代のみすゞ=同右=が現れる。
2012年、長門商工会議所青年部を中心にした「みすゞ燦参SUN実行委員会」が街づくりのために制作した。素材は、地元の名産かまぼこの板。三角柱にカットし、面ごとに異なる色に塗った2万枚を張り付けた。左右正面、見る角度によって三変化する。実行委員の一人、陶芸家の田原崇雄さん(35)は「128通りの色の組み合わせを考え、エクセルで配置を練った」と話す。張る前の板には地元の小学生や市民、観光客らがメッセージを書き込んだ。
「〈こだま〉とは人の痛みに共感する優しさでは」と金子みすゞ記念館の草場睦弘さん(74)はみる。26歳で自ら命を絶ったみすゞ。画(え)に映るその表情はどこか悲しい。だがその一片には「やさしい心ありがとう」という言葉が。4月11日で生誕114年。みすゞの思いは人々の心にこだましている。
(石井広子)
金子みすゞモザイクプロジェクト 地元の様々な業種の若手が集い、みすゞをモチーフにした街づくりを毎年企画している。2003年、「金子みすゞ生誕100年祭」を告知するポスターの制作を機に始動。04年から、みすゞにちなんだアート計9点を制作してきた。そのうち、09年に12万人の顔写真を集めて作った「プロジェクトMギネス」(縦32×横43メートル)は翌年、世界最大の写真によるモザイク画としてギネス世界記録に認定された。 《作品へのアクセス》JR仙崎駅から徒歩7分。 |
仙崎駅からみすゞ通りを歩いて5分の金子みすゞ記念館(TEL0837・26・5155)は、みすゞの実家の書店「金子文英堂」を再現した建物。512編の詩を残したみすゞの3冊の遺稿手帳(レプリカ)や関連資料などを展示している。手のひらにライトを当て、詩を映し出すコーナーも。
みすゞの実家跡の近くにある大和蒲鉾(かまぼこ)(TEL26・0611)では、近海の新鮮なエソの身のみを使った「浜千鳥」(1本756円)を販売。「焼き抜き」という地元仙崎の伝統的な製法で作られている。