森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
飲食店の看板がせり出し、金色のビリケン像があちこちに腰掛ける、大阪市浪速区の繁華街・新世界。にぎわいの先に、大阪のシンボルタワー通天閣がそびえる。真下から仰げば一転、時が止まったような気がした。頭上いっぱいに広がる花園で、3羽のクジャクが戯れる。
タワー脚部の天井にある、直径約17メートルの花鳥画。戦前の初代通天閣に描かれた化粧品会社「中山太陽堂(現・クラブコスメチックス)」の広告画を同社が復刻・寄贈したもので、2015年7月にお披露目された。
以前の天井画に関する記録は、モノクロ写真2枚と初期の下絵のみ。断片的な手がかりをイメージで補いながら、日本画家の沖谷晃司さん(45)が新たに原画を制作した。線の太さから、クジャクの羽の模様、花々の細部まで再現。「朝もやの中に花が咲き、クジャクたちが散歩する。見上げた先に、そんな楽園を想像してもらえたら」。完成原画はフィルムに拡大印刷され、天井に張り付けられた。通天閣観光の西上雅章社長(66)は「父から伝え聞いていた画がよみがえり、うれしく思います」と感慨深げに語る。
日没後、ライトアップされた天井を見つめる女性がいた。「電車からよく眺めている通天閣。久々に寄ったら、こんなにきれいな画が出来ていたなんて」。楽園への入り口は、ひそやかに訪問者を待っている。
(中村和歌菜)
通天閣 初代通天閣は1912年に建設されたが、43年に火災に遭い解体された。56年、周辺の商店主らが設立した通天閣観光株式会社によって現在の2代目通天閣が完成。2014年から翌年にかけては、展望塔として世界初となる、免震工法による改修を実施。同時に、天井画も復刻された。 《アクセス》恵美須町駅から徒歩3分。 |
新世界周辺には昔ながらの喫茶店が多い。レモンスカッシュを「レスカ」、アイスコーヒーを「冷(れい)コー」と呼ぶなど、昭和の文化が息づいている。喫茶タマイチ(TEL06・6643・2309)は、かつて近隣の店で作られていた「びっくりぜんざい」(写真、650円、4月まで販売)の味を再現。大ぶりの器に入った汁は優しい甘さで、千切りのショウガ付き。午前9時~午後8時。(水)休み。
通天閣の足元にあるラジウム温泉(TEL6641・3093)には、タワーを見上げて入浴できる露天風呂が。貸しタオル付きのワンコインセット(500円、入浴料込み)が便利。午前6時~翌午前0時。第2・4(木)休み。