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アートリップ

朱甲舞 
清水九兵衛作(京都市下京区)

古都を彩る朱色の舞

構内の無機質な空間に朱色が映える=桐本マチコ撮影
構内の無機質な空間に朱色が映える=桐本マチコ撮影
構内の無機質な空間に朱色が映える=桐本マチコ撮影 烏丸小路広場には松阪節三の作品「Space」=桐本マチコ撮影

 京都駅ビル構内に広がる高さ48メートルの大空間。風が吹き抜ける室町小路広場にその「舞人」は立っている。高さ約6メートル、朱に塗られた鋳造アルミと鉄パイプ製のモニュメント。まるで朱色の鎧(よろい)をまとった古(いにしえ)の踊り手が舞い降りたかのようだ。

 作者は彫刻家、清水(きよみず)九兵衞(1922~2006)。アルミニウムを素材に柔らかい曲線を生かした抽象的な造形で、数多くの野外彫刻を制作した。

 清水の作品には京都への複雑な思いが凝縮されているようだ。愛知県に生まれ、東京芸大鋳金科で学んでいた27歳の時、京都の清水焼6代目清水六兵衞の養嗣子となった。しかし、彫刻へのあこがれが断ちがたく、45歳で道を転じた。

 作品には随所に京都的なモチーフが現れる。本作を構成する曲線は町家の黒瓦を思わせ、朱色は平安神宮や伏見稲荷から着想したともいう。「京都の町並みにすごく影響を受けたといっていましたが、一方で京都に溶け込めないという気持ちもあったようです」と長年助手をつとめた藤岡五郎さん(51)。

 彫刻を作る際は、常に置かれる場所との「アフィニティー(親和)」を重視したという清水。京都の玄関口に置かれる「朱甲舞」は、京都と自身との親和を問い直した作品だったのかもしれない。

 9月に開業20年を迎える駅ビル。広場では、「舞人」が祝いの宴を待っている。

(石井久美子)

 京都駅ビル

 平安建都1200年を記念して1997年に開業した4代目の駅舎。建築家・原広司の設計で「京都は歴史への門である」をテーマに、構内に烏丸通と室町通を通し、それぞれに門を配置した。中央コンコースから段丘が東西に延び、ガラスに覆われたアトリウムが開放的な空間を演出している。ホテルや劇場、百貨店が入った複合施設としての駅ビルの先駆けとなった。


ぶらり発見

グラフィカルイルミネーションPlus

 駅ビル4階の室町小路広場から大空広場まで続く大階段では、125段の階段側面に埋め込まれた約1万5千個のLEDがさまざまなデザインで輝くグラフィカルイルミネーションPlusがある=写真は3月3日まで開催中の「桃の節句」。午後5時~10時。

 2階にある京都茶寮(TEL075・342・2170)では、京町家をイメージした店内で、丸久小山園のお茶と京都市内の老舗和菓子屋5軒の月替わりのオリジナル京菓子が味わえる。2月は、笹屋伊織の「馬酔木(あせび)」や老松の「鶯(うぐいす)の宿」など。お抹茶とセットで1029円から。

(2017年2月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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