森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
三河湾の約5キロ沖合に浮かぶ佐久島。浜辺に3メートル四方の黒い箱がどしりと立つ。はしごを上って寝ころぶと、潮風とさざ波の音が響いた。
「おひるねハウス」は、15年前に始まった芸術による島おこし「三河・佐久島アートプラン21」の一環だ。「アートというより、海を見ながらボーッとするための家です」と、作者である名古屋市の建築家南川祐輝さん(47)。2004年、知人のアートマネジメント会社社長から「島の魅力を引き出すオブジェを作ってほしい」と頼まれ、制作した。
周囲11・4キロの小さな島は、人口約250人。半数が65歳以上で、島民の多くがアサリ漁に従事する。バスも走らず、コンビニもない。潮風に乗って、ゆっくりと時間が流れている。
南川さんは島民やボランティアの協力を得て、「家」の基礎を鉄でくみ上げ、杉板を重ねた。黒い塗装は、潮風で壁が傷まないようにコールタールを塗る、島の伝統的な家並みをモチーフにした。
「島の風景に溶け込んで絵になりますね」と、富山から来た竹林由梨さん(17)がカメラを構える。作品は今、写真をSNSに投稿する若者の間で大人気だ。5月の連休には、1時間待ちの行列ができた。南川さんは言う。「ぜひ、昼寝もしてくださいね」
(曽根牧子)
三河・佐久島アートプラン21 2001年から続く現代アートを軸にした佐久島の活性化事業。アートとして再生した古民家やカモメの風見鶏など、島の景観を生かした22作品があちこちに展示されている。01年に年間4万人だった観光客は、昨年10万人を突破。地図を持って島を巡るスタンプラリーを来年3月まで開催。 《佐久島へのアクセス》 名鉄西尾駅からバスで30分、一色漁港から高速船が一日7、8便運航。 |
西港渡船場近くの黒壁集落=写真=は「三河湾の黒真珠」と称され、住民グループ「島を美しくつくる会」が中心となり、保全に努めている。防風のために細い路地を配し、まるで迷路のようだ。
集落の北にある滞在型農園クラインガルテンには、バーベキュー場を併設。天然カキなどの海の幸を味わえる。
都市部から移住した若者が営むカフェも話題だ。西地区の百一では西尾市産の抹茶を使ったラテ、東港近くのじょえるではオオアサリのパスタが人気。移動は徒歩かレンタサイクルで。問い合わせは佐久島振興課(0563・72・9607)。