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アートリップ

蟻の城 
向井良吉作(山口県宇部市)

歴史を見つめる「廃材」

修復で朱色に塗装された=滝沢美穂子撮影
修復で朱色に塗装された=滝沢美穂子撮影
修復で朱色に塗装された=滝沢美穂子撮影 市の中心部にある野外彫刻、伊藤憲太郎「SEED 増殖」=滝沢美穂子撮影

 日曜の昼下がり、近所の子どもたちが高さ5メートル、幅6メートルの鉄製の彫刻のもとで遊んでいた。彫刻家・向井良吉(1918~2010年)の作品だ。

 かつて、宇部市は炭鉱の町だった。昭和中期に工業化が進むと、煤塵(ばいじん)による大気汚染が広がり、公害問題が深刻になった。行政と市民が緑化運動を進め、やがて向井らが中心となって、61年に「宇部市野外彫刻展」(UBEビエンナーレの前身)を開催した。「蟻(あり)の城」は翌年、市の依頼で制作。市内の工場の廃材を使った。5年前に修復の監修をした東京造形大教授の井田勝己さん(59)は「昔と今の街の歴史をつなぎ、公害を乗り越えようと、廃材を使ったのでは」と話す。

 向井は戦後の抽象彫刻を代表する一人。蟻の城は自宅の庭で見つけたアリの巣と戦争体験から着想を得たという。42年から約4年間、現パプアニューギニアのラバウルで従軍していた。米軍の戦闘機が頭上を飛ぶ中、地面でアリ同士が戦い、その死骸を別のアリがすぐに片付けるのを見た。「アリも人間と似たような生活をしている。けれど、人間よりも優れた生物だなと思いましたね」とテレビのインタビュー番組で話している。

 設置から54年、二本足の巨大な「城」は、今も人間の営みを見つめ続けているようだ。

(吉田愛)

 ときわ公園

 常盤湖を中心とする189ヘクタールの総合公園。2年に一度開かれる彫刻のコンクール「UBEビエンナーレ」の主会場で、約90点の彫刻を常設展示する。来年で27回目。作品は市内各地にも展示する。7月22日(金)~8月28日(日)はデジタルアート集団・チームラボによる「呼応する森」(午後7時~10時、大学生以上300円)を開催。ライトアップした森で体感型の作品が楽しめる。

 《アクセス》 山口宇部空港から車で5分。新山口駅からバスで30分。


ぶらり発見

ラーメン

 ときわ公園内にあるときわ動物園(TEL0836・21・3541)は3月にリニューアルオープンした。動物たちのすみかを再現した「生息環境展示」でシロテテナガザルや、ボンネットモンキーなど霊長類を中心に26種約160匹を見ることができる。500円、中学生以下200円。原則午前9時半~午後5時、(火)休み。

 こってり濃厚な豚骨スープで知られるご当地ラーメンの中華そば一久(TEL32・1915)。創業45年で、宇部市内を中心に8店舗ある。ラーメン(写真、550円)の麺は中太で軟らかいのが特徴。取り寄せ可。

(2016年7月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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