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アートリップ

雨に消える椅子 
吉岡徳仁作(東京都港区)

街に溶け込む透明感

「ガラスの椅子は誰もが触りたくなる」と吉岡さん=谷本結利撮影
「ガラスの椅子は誰もが触りたくなる」と吉岡さん=谷本結利撮影
「ガラスの椅子は誰もが触りたくなる」と吉岡さん=谷本結利撮影 内田繁「愛だけを…」。リボンのような形で、寝転ぶことも=谷本結利撮影

 六本木ヒルズからけやき坂を下った歩道脇に、高さ約1メートルのガラス製の椅子がひっそりとたたずむ。周辺の道端に13個置かれている椅子のひとつだ。

 雨が降ると消えるように見えると聞いて、雨の日に行ってみた。結果は、ご想像にお任せするが、確かに椅子の表面を覆う波打った模様が雨だれと溶け合って、不思議な一体感を演出していた。制作したデザイナーの吉岡徳仁さん(49)によると、素材を作る段階で自然にできた表情という。計算では創り出せない美しさだ。

 ガラスという素材は存在感がある一方で、景色に溶け込むよさがある。「座った人の思いが加わってはじめて作品として完成するんです」と吉岡さん。

 作品は2003年4月、六本木ヒルズの開業に伴い設置された。森ビル都市開発本部の阿部浩志さん(56)によると、当初ベンチ作品を置く場所がとれず、工夫を重ねたという。車道を曲げて歩道を広げ、建物を後ろに下げて何とかスペースを確保した。「街路樹の緑やお店、アートを楽しみつつ歩いてほしい。疲れたらぜひ気に入った椅子に座ってみて」と阿部さん。

 晴天の午後に再訪すると、インド人夫妻が、日差しを受けて輝く椅子を眺めていた。妻は腰をかけ「私の国では道路にアートを見かけたことがない。ガラスの椅子はとてもロマンチックね」とほほ笑んだ。

(佐藤直子)

 六本木ヒルズ

 オフィス、店舗、文化施設などが集まった面積12ヘクタールの複合施設。開業にあたって、六本木を東京の文化の中心にしようと「六本木ヒルズパブリックアート&デザインプロジェクト」を立ち上げた。20人以上のアーティストがデザインしたパブリックアート、ストリートファニチャーが敷地内の各所に並ぶ。

 《アクセス》 六本木駅から直結、麻布十番駅から徒歩5分。


ぶらり発見

ニコラスピザハウス

 六本木ヒルズから徒歩5分の朝日神社(TEL03・3401・5790)で、7月8日(金)と9日(土)午前10時~午後6時半、「ほおずき市」を開催。宮崎県日之影町で生産したほおずきを販売する。8日3時と6時、9日11時と3時に奉納神楽「日之影神楽 祈りと感謝」の披露も。

 港区麻布台1丁目のニコラスピザハウス(TEL3568・2501)は1954年開業のピザ専門店。日本にピザを伝えたという触れ込みだ。オランダ産のチーズを使った手作りの「ナチュラルゴーダチーズ」は開店当時と同じ製法で作られている。自家製ソーセージ入りピザ(写真、1134円~)など全52種。

(2016年7月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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