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アートリップ

油屋熊八の像(ピカピカのおじさん) 
辻畑隆子作(大分県別府市)

片足立ちに込めた思い

台座には熊八が大事にした「旅人をねんごろにせよ」の言葉が。子鬼は地獄めぐりからイメージした=桐本マチコ撮影
台座には熊八が大事にした「旅人をねんごろにせよ」の言葉が。子鬼は地獄めぐりからイメージした=桐本マチコ撮影
台座には熊八が大事にした「旅人をねんごろにせよ」の言葉が。子鬼は地獄めぐりからイメージした=桐本マチコ撮影 アートで飾られた商店街の入り口=桐本マチコ撮影

 「油屋熊八って駅前のあの人やろ」。地元のカップルが両手を挙げてみせた。

 温泉マークのマントに子鬼をくっつけ、あの世から舞い降りた姿で別府駅東口に立つのは、別府観光の礎を築いた実業家、熊八(1863~1935)の銅像だ。4月の熊本地震でも無事だった。

 そのはげ頭から「ピカピカのおじさん」と子どもに親しまれた熊八は、温泉の「地獄めぐり」にバスを導入し、日本で初めて女性バスガイドを起用したアイデアマン。富士山や各地に別府を宣伝する標柱を立てた。

 像は大分みらい信用金庫が創立80周年を記念し、9年前に市に寄贈。作者の彫刻家、辻畑隆子さん(65)は、奇抜な発想をもつ熊八に「直立不動は似合わない」。不況の世に「熊八さんが生きていたら、やあ皆さんどうしましたかと明るい姿でやってくるんじゃないかと思って」。

 像のユニークさに批判的な意見もあった。「でも実は、彼の苦しみや悩みも込めているんです」。借財や周囲を説得する苦労を、かかとを上げた片足立ちの不安定な姿勢に投影した。

 大きな手が自慢で「全国大掌大会」を開いた熊八。「自分の体まで観光に利用したんです」と熊八を研究する平野芳弘さん(64)。像は今、人気の撮影スポットに。観光客が手のひらを広げ写真に納まった。

(中村さやか)

 北高架商店街

 別府駅から徒歩3分程の高架下に、昔ながらの雰囲気とアートが混じり合う独特な空間が広がる。全長約50メートルの商店街。天井からカワウソのオブジェが顔を出し、ミラーボールのような明かりが壁画を照らす。2010年に始まり、毎年市内各所で開催される市民文化祭「ベップ・アート・マンス」の作品の一部や、地元作家の作品が蓄積されていった。毎週(土)にはフリーマーケットが開かれ、ワークショップなどもある。


ぶらり発見

昭和レトロタオル

 室町時代から続くという別府の竹細工。別府駅から徒歩8分のプラットフォーム07 別府竹細工職人工房(TEL090・2850・8170)では、竹を加工したり、かごを編んだりする職人の技を間近で見ることができる。作品の販売も行う。

 市内のあちこちに点在する共同浴場の温泉を楽しむなら、タオルの持参を。別府駅から徒歩7分、別府タオル(TEL0977・22・0902)では、昭和30年代に作られた版を使った懐かしいデザインの「昭和レトロタオル」(写真、350円)を販売する。「別府♨温泉」の文字が入っていて、旅の土産にもおすすめ。全7種を展開。

(2016年5月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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