読んでたのしい、当たってうれしい。

建モノがたり

ROKI グローバルイノベーションセンター(静岡県浜松市)

風と陽光 立地の強みを最大化

天井には自社製品のフィルター素材を採用。ガラス素材の屋根からの直射光を和らげながら、光の変化を感じられる

 大きく蛇行する天竜川を見下ろす場所に、巨大な温室を思わせる曲面の屋根。ここでは何を?……。

 自動車産業向けを中心に濾過(ろ・か)機器やフィルター製品を製造するROKIの研究開発施設「グローバルイノベーションセンター」は、傾斜地に沿って立つ。4階の入り口から中に入ると、天幕のような天井越しに自然光がふり注ぐ。各フロアが浮遊するように層を成し、巨大で立体的なワンルームのようだ。

 設計した小堀哲夫さん(51)の構想は「土地がもつポテンシャルを最大化したい」という思いから始まった。

 浜松市街まで広がる扇状地の谷口にあたる敷地一帯は、常に上昇気流が生じている。宅地造成計画が数十年前に中止されたひな壇状の土地で、全国でも日照時間が長い浜松の陽光をさえぎるものはない。

 1階は池に面して板敷きのテラス席があり、全面ガラスの引き戸越しに自然と戸外とつながる。引き戸を開けると4階天井の天窓が自動的に開いて空調が停止、下から上へ空気が流れる仕組み。

 1年の半分近くを空調なしで過ごせるのは恵まれた気候に加え、「人は半戸外の空間にいると室温変化への許容度が高い」ためという。

 人工的な制御を少なくすれば当然、室温や明るさにムラができるが、小堀さんは「あえて不均一な空間を作った」と話す。環境変化の大きい上層階は共用スペースなどとし、中間階に執務スペース、外部の影響を受けにくいエリアには実験室を配置した。エンジニアらは仕事の種類やその時の気分で、自由に居場所を選ぶこともできる。

 天井の木格子をはじめ、内装には木がふんだんに使われている。「アイデアは、ふとした瞬間に自然を感じられるような場所で生まれるんじゃないかな」

(深山亜耶、写真も)

 DATA

  設計:小堀哲夫建築設計事務所
  階数:地上4階
  用途:研究開発施設
  完成:2013年

 《最寄り駅》:天竜二俣


建モノがたり

  天竜二俣駅から徒歩15分の森の中の菓子工房ミココリエ(問い合わせは053・545・4096)は、自家栽培した緑茶、紅茶、ほうじ茶を使った焼き菓子とケーキを中心に販売する。季節の果物で作った週替わり、月替わりのケーキも人気。午前10時半~午後6時半。(月)(火)休み。

(2023年5月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

建モノがたりの新着記事

新着コラム