徳島駅からバスを乗り継ぎ約4時間。山間の過疎の村に「世界一美しいコンビニ」を訪ねた。
桃栗3年柿8年、ユズの大馬鹿18年。成長の遅いユズを接ぎ木栽培で品種選択を重ね、屈指のユズ産地となった徳島県那賀町木頭(き・とう)地区。「木頭ゆず」は豊かな香りと、果皮のきれいな黄色が高く評価されている。
一番近い商店まで車で1時間かかる人口約千人の地区にできた「未来コンビニ」は、ガラス張りの店内に明るい黄色の鉄柱が立ち並び、ユズの香りが漂ってくるようだ。
設立したのは過疎が進む地域の創生をめざす「KITO DESIGN HOLDINGS」。地元出身の実業家の藤田恭嗣(やす・し)さんが故郷のために設立した会社で、ユズ加工品販売なども手がけてきた。住民の買い物支援のため、旧北川小学校跡地に「世界一美しいコンビニ」をつくることを思い立った。
「世界一美しい」というお題に、設計を担当したコクヨ(当時)の佐藤航さんの最初の提案は、子どもたちがはしゃぎ回る光景を縁側のある木造家屋に落とし込んだものだった。
しかし藤田さんの反応は「木造家屋や縁側はたくさんある。ここにないものをつくりたい」。山間地なら木造建築、と都会人が陥りやすい先入観にとらわれていたことに気づき、「ガツンと頭を殴られたようだった」と佐藤さんは話す。
木頭地区で「美しい」と胸を張れるものを表現しつつ、新しさを呼び込む建築は……。発想を転換し、鉄骨造りやプレハブ工法を採用。Y字形の鉄柱が2㍍間隔でリズミカルに並ぶ、ユズ畑のような景色が生まれた。
建築やデザインの複数の賞を受けて知名度が上がり、週末には地区外から訪れる人も多いが、基本的には住民が気軽に訪れる店だ。首都圏から移住してきた運営責任者の宮脇貴之さんは「地区の子どもたちは一人で買い物する体験がしにくい。ここが教育の場にもなってほしい」と話した。
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:コクヨ、佐藤航(WATARU ARCHITECTS) 《最寄り駅》 徳島駅から車 |
未来コンビニ(問い合わせは0884・69・2620)には食品や日用品のほか、木頭杉の箸や木頭ゆずを使った世界的パティシエのスイーツなどの特産品も多数そろう。木頭ゆずの100%果汁をショットグラスで提供する「ゆずショット」(200円)や、炭酸水で割った「ユズキンソン」(380円)などのカフェメニューも。午前8時~午後7時。(水)休み。