寒い時期限定、一本200円の「駅長さんのやきいも」。駅職員が交代で一人勤務し、駅長として業務のかたわら販売する。「お芋が欲しいんだけど」と窓口で声をかける客に、駅長の高田勇美さん(67)は軍手をはめながら、「焼けてるかなあ。何本ですか」。
約6年前、駅業務の空いている時間を活用して赤字経営の一助に何かしたいという職員の要望を受け、観光客の多い岩村駅で始めた。駅近くの通りには城下町の風情が残り、冬には酒造会社の酒蔵開きもある。販売当初は、戸惑うことも多かったと高田さんは話す。「火が通ったか分からず箸でつついたり、割ってみたりしてね」。今はぷわっと膨らんだ感触で分かるという。
一日で100本以上売れることもあり人気だったが、2012年に恵那市観光協会岩村支部に駅業務を委託したことをきっかけに、販売を明智駅へ移した。
明智駅での利用客の多くは、買い物ついでに寄る地元の人たちだ。普段、駅を使うことはほとんどない。少子化で学生の利用が減り、地域における駅の存在感は薄れていく一方。焼き芋の販売で多くの利益があるわけではないが、「地元の人が立ち寄ってくれる場所になれば」と明知鉄道広報の伊藤温子さん(38)。
平日のお昼ごろ。家族で買いに来た近くに住む30代の男性は、「甘みがあっておいしい。販売が始まると冬がきたなと思う」と、車に乗った。
文 土田ゆかり/撮影 桐本マチコ
明知鉄道は、いずれも岐阜県恵那市の恵那駅と明智駅を結ぶ25.1キロ。特産品を使った「グルメ食堂車」を通年で運行。 岩村駅から岩村城跡までは、城下町の雰囲気が残る道を歩いて約1時間。「日本100名城」に選定された城で、本丸周辺には石垣が残る。問い合わせは恵那市観光協会岩村支部(0573・43・3231)。 江戸時代から続く岩村醸造(TEL43・2029)の酒蔵では見学、試飲ができる。蔵内には、酒や米の運搬に使われていたトロッコ線跡がある。2月の(日)と11日、3月6日、蔵開きを開催。300円(おちょこ付き)。
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駅から徒歩5分の日本大正村(TEL0573・54・3944)には、明治時代につくられた町役場や、農家から預かった繭を収蔵していた銀行の繭蔵などがある。かつて明智の地域は、蚕糸を地場産業としていた。一部入館料有料。 |