読んでたのしい、当たってうれしい。

ひとえきがたり

高野山駅(和歌山県、南海高野山ケーブル)

暮れゆく 開創1200年の聖地

高野山駅(和歌山県、南海高野山ケーブル)
国登録有形文化財に指定されている高野山駅駅舎。宝形(ほうぎょう)屋根に宝珠(ほうじゅ)を載せたデザインだ=和歌山県高野町高野山
高野山駅(和歌山県、南海高野山ケーブル) 地図

 標高約800メートルの山上盆地に弘法大師空海が開いた真言密教の聖地、高野山。今年は開創1200年にあたり、4月2日~5月21日には大法会(ほうえ)が執り行われた。期間中、駅の降車人数は約13万人で、前年同時期の約2.5倍。寒さの厳しい12月を迎え、現在は1日1500人程度と例年並みに近づきつつある。

 駅は1930年に開業。ふもとの極楽橋駅との間を2両編成のケーブルカーで結ぶ。幾度かの改修を経た駅舎は2月にリニューアルされ、開業当時の丸窓や欄干、黄土色の外壁を取り戻した。

 12月上旬の平日、ケーブルカーが到着する度に4、5人の駅員が一礼で出迎えていた。「お大師様への入り口として恥ずかしくないおもてなしを」と原田保駅長(62)。乗客の多くはバスに乗り換えて専用道路を下り、山内に向かう。外国人観光客に駅員が「Have a nice trip(いい旅を)」と手を振っていた。

 高野山は東西6キロ、南北2キロほどの範囲に、総本山金剛峯寺や奥の院など117の寺院が並ぶ。金剛峯寺の僧侶で、開創法会事務局の薮邦彦(ほうげん)課長(46)は「町全体がひとつの宗教都市。閉ざされた不便な場所にあるからこそ、たどり着くまでの道程も楽しんで頂きたい」と話す。

 参拝を終え、ケーブルカーを待っていた東京在住の70代の女性は「冬の張りつめた空気が神聖な気分にさせてくれました」。高野山とともに、駅の特別な1年が間もなく幕を下ろす。

文 永井美帆撮影 楠本涼 

 沿線ぶらり

 南海高野山ケーブル(鋼索線)は極楽橋駅(和歌山県高野町)と高野山駅(同)を結ぶ830メートル。極楽橋駅で南海高野線と接続している。

 高野山観光には南海りんかんバス(TEL0736・56・2250)の1日フリー乗車券(830円)が便利。空海の御廟(ごびょう)や約20万基の墓石、供養塔が並ぶ奥の院の参道入り口まではバスで約15分。

 山内には52の寺が宿坊として宿泊客を受け入れている。朝勤行や精進料理のほか、一部では瞑想(めいそう)法「阿字観(あじかん)」や写経などの体験も。問い合わせは高野山宿坊協会(56・2616)。

 

興味津々
中門

 高野山の聖域「壇上伽藍(がらん)」の入り口にあたる中門が172年ぶりに再建された。幅25メートル、奥行き15メートル、高さ16メートル。悪いものを寄せ付けないよう、高さ5メートルの四天王像が安置されている。

(2015年12月22日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

ひとえきがたりの新着記事

新着コラム