待合室を抜けると、線路の先に大村湾が広がった。沈む夕日に凪(なぎ)の海が輝く。
美しい夕焼けを求めて、九州各地から人々が集まってくる。趣味のカメラ歴20年という福岡県の主婦(67)は、「不便な田舎だけど、宝のような景色ですね」。1人で2時間も海を眺めていた休職中の女性(40)は、「癒やされました」。レトロな木造の駅舎が、週末だけおしゃれなカフェになるとの評判を聞き、佐賀県から訪れたという。
今年2月、改装した駅舎内にデザイン事務所兼カフェ「UMIHICO(ウミヒコ)」がオープンした。営むのは、堀越一孝さん(33)。東彼杵(そのぎ)町が嘱託する「地域おこし協力隊」だ。画家の妻・美貴さん(32)と地元のデザイナーと3人で、「夕日の駅」をコミュニティー誌やネットで発信する傍ら、掃除、切符販売もこなす。
かつては大手重工業メーカーに勤めるエンジニアだった。だが、東日本大震災を機に「地域の人と直接つながる仕事がしたい」と、退職。2年前に神戸から一家で移住した。さびれていた無人駅を一転、にぎやかな場所に変えたのは、「よそ者ならではの視点」と分析する。
昨冬、駅は期せずして「青春18きっぷ」のポスターにも起用された。町役場の担当者によると、「どうやって行くのか」「何時がきれいか」など全国から問い合わせが絶えないという。
「地元の人が誇れる駅になれば」。堀越さんはそう願っている。
文 曽根牧子/撮影 横関一浩
JR大村線は早岐(はいき)駅(長崎県佐世保市)と諫早駅(諫早市)を結ぶ47.6キロ。 大村駅の一角にはコミュニティーFM放送局FMおおむらがスタジオを構える。キリシタン殉教の史跡を巡るなら合同タクシー(TEL0957・52・3161)で。「巡礼コース」は1時間4千円~。 2日間乗り放題のぶらり大村線きっぷ(3090円)を利用して、「肉のハマサキ」(竹松駅前、TEL55・7218)のカルビコロッケや、道の駅「彼杵の荘」(彼杵駅から10分、TEL49・3311)で買える茶ちゃ焼きなど沿線グルメを楽しむのもおすすめ。
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カフェUMIHICO((金)(土)(日)の午前10時~午後6時、TEL0957・46・0961)では、「ほうじそのぎ茶ラテ」(400円)など地元食材を使ったメニューを販売する。写真や書道のワークショップ、農産物のトラック市も開催。 |