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ひとえきがたり

九度山(くどやま)駅(和歌山県、南海高野線)

雨上がりのホームに車体の赤がまぶしい。シートやつり革にも六文銭=和歌山県九度山町
雨上がりのホームに車体の赤がまぶしい。シートやつり革にも六文銭=和歌山県九度山町
雨上がりのホームに車体の赤がまぶしい。シートやつり革にも六文銭=和歌山県九度山町 地図

 赤い陣幕や暖簾(のれん)に彩られ、柱も赤く姿を変えたホームに、真っ赤な電車が滑り込んできた。あちこちに真田家の家紋「六文銭」があしらわれている。

 九度山町で真田幸村を前面に出した町おこしが始まったのは10年前。真田といえば信州上田のイメージが強いが、実は九度山は、関ケ原の戦いで敗れた幸村が蟄居(ちっきょ)を命じられ、大坂冬の陣で挙兵するまでの14年間を過ごしたゆかりの地だ。

 例年2万人が訪れる5月の真田まつり。町は5年前、武者行列の主役・真田親子の甲冑(かっちゅう)を史実に基づいて作ろうと大阪城天守閣に助言を求めた。示されたのは「大坂夏の陣図屛風(びょうぶ)」の赤で武具を統一した幸村勢。旧主武田の赤備(あかぞな)えを引き継ぎ、圧倒的に不利な戦いに臨む決死の姿だった。町産業振興課の土岐嘉伸さん(39)は「町民も赤備えの意味までは知らなかったのでは」と振り返る。今では行列は赤一色。町のシンボルカラーになった。「やっぱり赤はかっこええでしょ」と話す梅下修平さん(45)。自ら幸村の甲冑姿に扮する手作り甲冑隊は、全国のイベントにひっぱりだこだ。

 昨年5月、来年のNHK大河ドラマが幸村を主人公にした「真田丸」に決定。南海電鉄は今年11月から1年間限定で「真田赤備え列車」の運行を開始、築90年余の木造駅舎も赤で化粧直しされた。

 「九度とは何度もという意味」と駅長の守道利一郎さん(48)。「九度山へ何度でも来てほしい」と笑った。

文 東芙美撮影 桐本マチコ 

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 南海高野線は汐見橋駅(大阪市)と極楽橋駅(和歌山県高野町)を結ぶ64.5キロ。運行上は南海難波駅から極楽橋駅までを指す。

 九度山駅から徒歩10分にある別名真田庵、善名称院(TEL0736・54・2218)は、昌幸・幸村父子の屋敷跡に建つ。境内の宝物資料館には武具や書状が並ぶ。

 駅から徒歩30分、世界遺産の慈尊院(TEL54・2214)は高野山の表参道・町石道の出発点。空海が歩いた21キロを約7時間でたどれる。まちなか語り部(TEL54・2019)と歴史を学びながらの散策も。要予約、2千円から。

 

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おっぱい弁当

 女人高野と呼ばれる慈尊院は安産や乳がん平癒を願う女性が多数訪れる。乳房型の絵馬にちなんだおっぱい弁当(700円)も人気。真田いこい茶屋(TEL090・5906・7689)の主婦たちのアイデアと地元の食材が詰まった自信作だ。要予約、3日前まで。

(2015年12月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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