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ひとえきがたり

国道駅(神奈川県、JR鶴見線)

降り立てば、焼き鳥の匂い

1971年に無人駅となったが、JRの社員が巡回することがある。会社帰りのサラリーマンは改札を出てすぐ、焼き鳥店ののれんをくぐった
1971年に無人駅となったが、JRの社員が巡回することがある。会社帰りのサラリーマンは改札を出てすぐ、焼き鳥店ののれんをくぐった
1971年に無人駅となったが、JRの社員が巡回することがある。会社帰りのサラリーマンは改札を出てすぐ、焼き鳥店ののれんをくぐった 地図

 日が沈みかけた午後4時ごろ。JR鶴見線を走る3両編成の電車はカーブの途中にある国道駅に停車した。降り立つと焼き鳥の香ばしい匂いが漂う。空き店舗が並ぶ高架下で唯一営業している焼き鳥屋「国道下」から立ち上る匂いだ。営業は4時半からというが、12席しかない店内はすでに常連客で埋まっていた。店を始めたのは37年前。店主の妻、今橋みつ江さん(66)は「当時の風景も今とあまり変わらない」という。

 鶴見線は1926(大正15)年に鶴見臨港鉄道の貨物線として運行を開始し、国道駅は30(昭和5)年に開業した。駅名の由来は国道15号と隣接しているからだという。当初、高架下は「臨港デパート」と呼ばれ、呉服店や文房具店などが並んでいた。子どものころ文房具店でそろばんを買ったという山崎忠三郎(たさぶろう)さん(88)は「夜になるとそこだけ明かりがこうこうと照っていたね」と話す。

 35年、隣の鶴見駅に大型の商業店舗が建つと、40年ごろの臨港デパートにはほとんどの店がなくなったという。大きな改修をしていない駅舎は昭和初期のモダンな趣が残り、現在ではアマチュアカメラマンや鉄道好きが集まる。

 午後6時ごろ、近所の子どもが「国道下」の前を通りかかると、「ただいま」と声をかけた。店主の今橋勝明さん(73)が「おかえり」と答える。人気の少ない高架下で小さなにぎわいが今もひっそりと続いている。

文 吉田愛撮影 伊ケ崎忍 

 興味津々  

 JR鶴見線は鶴見駅(横浜市)と扇町駅(川崎市)を結ぶ本線と支線を合わせた全約10キロ。

 11月23日(月・祝)午前9時~午後1時、近くの生麦魚河岸通りで生麦旧東海道まつりを開催。海鮮がのった「生麦丼」や、約30センチの大きさのアナゴの天ぷらを各600円で販売。問い合わせは実行委・内田さん(090・2942・4299)。隣の鶴見駅から徒歩約7分の所には曹洞宗大本山總持寺(そうじじ)(TEL045・581・6021)がある。元々、寺院は石川県輪島市にあったが、1911年に移転。毎月、誰でも坐禅(ざぜん)が組める「参禅会」を開いている(有料、当日先着100人)。

 

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国道下の焼き鳥

 国道下(TEL045・503・1078)の焼き鳥写真=は1本50円。特製の甘辛いみそだれを付けて食べる。ほかにも近くの魚河岸から毎日仕入れているというマグロやサンマなどの刺し身も味わえる。午後8時まで、(日)(祝)休み。

(2015年11月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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