「愛しのタチアナ」(1994年) ロッカー気取りにコーヒー中毒。おじさんたちがかもす、おかしみと哀愁のロードムービー。
和菓子作りのイメージを膨らませたいとき、見たくなるのがウォン・カーウァイの作品です。
1960年代の香港を舞台に描いた大人の恋物語「花様年華」。物語の内容よりコントラストの強いダークな色彩の中でみせる映像美に引かれます。
印象的なのが、チャウとチャン夫人が食事の帰りに夜道を歩くシーン。互いの伴侶の情事がきっかけで距離が縮まり、引かれ合う2人。離れたくない雰囲気を表すのに、チャン夫人の手元がアップで映されます。チャウのスーツを人さし指でなぞる微細な動きから、別れがたい様子がすごく伝わってくるんです。細部をクローズアップして心情を描写する、それがウォン・カーウァイの素晴らしいところだと思います。
2人がレストランで食事をするシーンでは、壁の模様や、淡いグリーンの食器が印象的でした。そこからインスピレーションを受け、バタフライピーの花で色を付けた淡いブルーの寒天にキンモクセイを浮かべ、杏仁豆腐(あんにんどうふ)と層にした和菓子を作りました。控えめな甘さの中に、キンモクセイの酸味と杏仁のクリーミーさを感じる一品です。和菓子に合う柄の皿にのせて、食後のデザートとして2人に食べてもらいたいですね。
学生の頃からアジアの文化に興味があり、最近では中国で和菓子を振る舞う仕事もしています。口に合わなければ「おいしくない」って言われるし、逆においしければ受け入れてくれる。率直さがいいんです。和菓子は食べてしまえば消えてなくなるもの。はかなさ、潔さが私の人生観にフィットしている気がします。
(聞き手・片山知愛)
監督・脚本=ウォン・カーウァイ 製作=香港 出演=トニー・レオン、マギー・チャンほか すぎやま・さよこ 2014年、御菓子丸を始動。月一の喫茶イベントやオンラインストアで和菓子を販売。著書に「御菓子丸の菓子」(torch press)。 |