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オトコの別腹

田沼武能さん
「長命寺桜もち 山本や」の桜もち(召し上がり)

「長命寺桜もち 山本や」の桜もち(召し上がり)
「長命寺桜もち 山本や」の桜もち(召し上がり)
「長命寺桜もち 山本や」の桜もち(召し上がり) 田沼武能さん

 創業300年以上の歴史があるお店。小さなころから食べています。こしあんに薄い皮、塩漬けにしたオオシマザクラの葉っぱ3枚で包んであります。葉っぱごとほおばるのが私の食べ方。香りがしっかりしていて、塩気もいいあんばいです。

 私は浅草生まれの浅草育ち。実家は写真館を営んでいました。「子どもは外で勝手に遊んでこい」なんて時代でしたから、近所の仲間たちと一緒によく、この桜もちを食べに行ったものです。浅草からお店がある向島へ行くには、橋を渡って隅田川を越えなければならないので、幼い私には大冒険でしたよ。店内の緋毛氈が敷かれた席に座って、煎茶と一緒に食べるのが恒例でした。

 16歳の年、東京大空襲に遭いました。信州へ疎開しましたが、食料はまったく手に入らなかった。お金があっても無意味でした。母は食料と自分の着物を交換していました。戦中戦後、砂糖はとても貴重で、甘味料といえば人工のサッカリン。そんな時でも長命寺の桜もちは伝統の味を守っていた。いつ食べても変わらない味にふるさとを感じます。

 ◆東京都墨田区向島5の1の14(問い合わせは03・3622・3266)。
 「召し上がり」は煎茶付き350円のイートイン。
 持ち帰りは220円~。
 花見の混雑期は持ち帰りのみとなる時も。
 午前8時半~午後6時。
 (月)休み。


 たぬま・たけよし 写真家。
 1929年生まれ。昨年、写真の分野で初の文化勲章を受章。2019年度の朝日賞特別賞。7月31日から富士フイルムフォトサロン大阪で個展「わが心の東京」を開催予定。

(2020年3月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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