森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
つんと冷えた朝の青空に映える、雪化粧の富士山。そのふもと、静岡県富士宮市に逆円錐(えんすい)形の建物がたたずむ。一昨年開館した県富士山世界遺産センターだ。その姿が手前の水盤に映ると、もう一つの「山」が現れた。
ガラス張りの建物から張り出した高さ13メートルの「逆さ富士」は5階建ての展示棟。らせん状のスロープに沿って展示を見る構造だ。外側は地元産の富士ヒノキの約8千ピースを格子状に組んだ。
設計は建築家の坂茂さん(61)。高校時代、ラグビー部の合宿で訪れた山中湖の逆さ富士に想を得た。「実物の造形美には太刀打ちできないので、間接的に表現しようと考えた」と水鏡の発想を取り入れた。
観光客が水盤にカメラを向ける。水面をのぞいた女性は「吸い込まれそう」とひと声。水深は3センチなのに、その奥に別世界が広がっているようだ。長い時間をかけて湧き出した富士山の雪解け水を引き込む。
古来、この地は富士登山の玄関口だった。近くには、富士山をご神体とする富士山本宮浅間大社が鎮座する。入山者は境内の湧玉池でみそぎをしてから出発した。その鳥居の一つがセンター敷地内にある。
2013年に世界遺産登録され、国際的な観光地となった富士山。新名所の「逆さ富士」も、国内外からの観光客を出迎えている。
(木谷恵吏)
県富士山世界遺産センター 富士山にまつわる歴史や文化などを発信する。展示棟では、スロープに沿った壁面にパノラマ映像が流れ、疑似登山を体験できる。常設展はタッチパネルや映像を用いて、信仰や芸術、火山などの切り口で紹介。最上階の展望ホールは、正面に見える富士山を絵画のように切り取った眺望を楽しめる。300円。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。第3(火)休み。問い合わせは0544・21・3776。 《アクセス》 富士宮駅から徒歩8分。 |
静岡県富士山世界遺産センターから徒歩10分。世界文化遺産の構成資産の一つ、富士山本宮浅間大社(TEL0544・27・2002)は、全国に約1300ある浅間神社の総本宮で、富士山八合目以上を所有する。山開きに合わせ、7月10日には開山祭が行われる。
大社前にあるお宮横丁では、ご当地グルメとして知られる富士宮やきそばなどが味わえる。「むすび屋」(TEL25・2144)では富士山に見立てた焼きのりや目玉焼きが載ったメニュー(650円)も=写真。