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アートリップ

空の粒子/パッセージ2015 
青木野枝作(大阪市中央区)

鉄なのに どこか優しい

アーチの歩道の両端にツリー型のオブジェがある=滝沢美穂子撮影
アーチの歩道の両端にツリー型のオブジェがある=滝沢美穂子撮影
アーチの歩道の両端にツリー型のオブジェがある=滝沢美穂子撮影 さびが進むと暗褐色に変化する=滝沢美穂子撮影

 寒空の中、せわしなく人々が行き交う大阪市・淀屋橋近くの御堂筋。一区画入ると、石張りの日本生命保険本店東館ビルを囲む植栽豊かな歩道が現れた。無数の鉄の輪が連なる7本のアーチと2基のオブジェが出迎えてくれる。鉄なのにどこか優しいその作品は、街路樹のカツラとなじみ、歩行者をほっとさせる。

 作者は、鉄にこだわり制作する彫刻家の青木野枝さん(60)。「鉄のよいところは、いろんな意味で永久ではないところ。時とともに変化する姿に親しみを感じます」と話す。

 今作は、さびが進行後に安定するコールテン鋼を使用。厚さ12ミリの鉄板を円状に溶断し、組み合わせて溶接した。鉄を溶断することを青木さんは、「線を作る」と表現する。線は空気を含み、空間に余白を生む。そこに、軽やかさや安らぎを感じるのかもしれない。「空に水が蒸発してまた地上に戻る、水が循環する中で私たちは生きている。その世界を表現しています」

 このビルで働く約3300人の9割が女性。作品設置に携わった同社不動産部の鈴田裕さん(56)は、「作品の持つ柔らかさがこの環境に合いました」と話す。新緑の季節には、縁石に腰掛けて休憩する女性をよく目にするという。「この空間で一時だけでも、空を見上げて自分を見つめる時間を持ってもらえたら」と青木さんは、ほほえんだ。

(石井久美子)

 淀屋橋

 江戸時代、豪商の淀屋が米市の利便のために土佐堀川に架橋した橋が地名の由来。橋に直結する御堂筋は大阪市の中心部を南北に縦断する街路で、中之島には市役所や日本銀行大阪支店がある。船場側には大阪が発祥の日本生命や住友グループの関連企業などがあり、大阪の代表的なオフィス街となっている。日本生命保険本店東館は、大阪市の都市再生特別地区の制度を使い、2015年に建て替えられた。

 《アクセス》淀屋橋駅から徒歩1分


ぶらり発見

 作品のすぐそばには、蘭学者で医学者の緒方洪庵(こうあん)が幕末に開いた適塾の建物(TEL06・6231・1970)がある。福沢諭吉らが学んだ町屋が国の重要文化財として保存されている。午前10時~午後4時。入館料260円、(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。

カカオティー

 作品から徒歩5分、チョコレートショップのカカオティエゴカン(TEL6227・8131)は、店内でカカオ豆を焙煎(ばいせん)。ティールームでは焙煎時に出る皮を使ったカカオティーが味わえる。ココアのような香りで味わいはフルーティー。ショップで購入もできる(どちらも各648円)。

(2019年1月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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