森万里子作(東京都港区) 滑らかな曲線が美しい弧を描いて上昇しては、緩やかに下りてくる。
静岡県西部の田園地帯や山あいを走る天竜浜名湖鉄道。そのほぼ中間にある都田駅は、瓦ぶき屋根の小さな無人駅だ。中をのぞくと、色とりどりの模様が目に飛び込んできた。
駅舎内の壁を覆うのは、フィンランドの服飾・生活雑貨ブランド「マリメッコ」などの布地を貼ったパネル約300枚。大きな花柄やリズミカルな模様に、心が華やぐ。ガラス張りの奥に広がる「駅Cafe」((金)~(月)営業)のテーブルクロスやコップまでマリメッコ尽くしだ。
駅舎は築78年。年季の入った壁や柱に、鮮やかな色彩が合う。長らく薬局が営業していたが、2015年、地元に本社を置く都田建設が改装。自然と共存し、ものを丁寧に使う北欧の生活様式に共鳴して設計した。
大胆な改装が注目を集め、昨年度の駅利用者数は2万4120人。2年連続で増加した。本を読みふける女性、ホームに接するテラス席でくつろぐグループ――。カフェスタッフの小倉拓一郎さん(44)は「1時間に1本の電車を待つ時間も、楽しんでいるように見える」と話す。
名古屋市から訪れた猪鹿倉(いがくら)とよ子さん(66)は北欧デザインのファン。「ゆったりした景色とマリメッコの柄に元気をもらった」と笑顔だ。
ホームに出ると、穏やかな秋空が広がった。鈴虫の音色に、しばらく耳を澄ませた。
(木谷恵吏)
天竜浜名湖鉄道 掛川駅(静岡県掛川市)と新所原駅(同県湖西市)の67.7キロを約2時間で結ぶ天竜浜名湖鉄道(TEL053・925・2276)。39駅のうち無人駅は32駅。九つの駅舎が国の登録有形文化財。現役の転車台や扇形車庫がある天竜二俣駅、冬にはホームにカモメが舞う浜名湖佐久米(さくめ)駅などが知られる。沿線人口が減少傾向にあり、ラッピング列車や転車台ツアーなどで観光客誘致を強化。都田建設と連携し、カーテンなどにマリメッコの布地を取り入れた「スローライフトレイン」も。 |
都田駅から徒歩15分。北欧の文化を発信する複合エリアとして都田建設が運営するドロフィーズキャンパス(TEL0120・142750)には、雑貨店やカフェ、ギャラリーが集まる。食品や家具、年代ものの陶磁器=写真=などを販売する。
天竜浜名湖鉄道が走る浜名湖沿岸は、自転車旅行者の受け入れ整備が進んでいる。都田駅も専用のシャワー室などを配備。湖を一周する67.1キロの浜名湖一周ライドハマイチコースは、里山や湖岸の風景を楽しめる。