駅に着くと、迎えてくれたのは特産の織物をまとった小さな「松阪牛」像。松阪の名を全国に知らしめた、まさに立役者です。しかし、牛だけではありません。日本史に名前を残した偉人や有名店のルーツなど、街が育んだ歴史の数々に触れることができます。
取材・文/渡辺鮎美
撮影/篠塚ようこ
街にゆかりの偉人たち
街の要(かなめ)はやはり松坂城。1588年、武将、蒲生氏郷(がもう・うじさと)の築城以来、街は今も、城跡を基点に扇状に広がる。
作家、梶井基次郎が自身の体験をもとに書いた小説「城のある町にて」にも、主人公が城跡から街を眺める情景がしばしば描かれる。城跡に上ると、眼下に武士の住まい御城番(ごじょうばん)屋敷、その先に寺の屋根。瓦が太陽の光をあつめて輝きを放つ。物語の中に入り込んだような気がした。
「古事記伝」を著し、「国学者」として歴史に名を残した本居宣長。実は松阪の商家の生まれだ。町医者のかたわら、古事記や源氏物語の研究に取り組み、国学の四大人(したいじん)の一人にも数えられた。城の桜が見えるようにと、工夫をこらして建てられた宣長の住まいは、今では松坂城跡の一角に移築され、緑豊かな木々に囲まれている。
本居宣長記念館館長の吉田悦之(よしゆき)さん(57)は、「宣長は、生涯のほとんどを松阪で暮らし、町の良い点、悪い点を客観的に記しています。彼を知れば松阪がもっと楽しめるはず」と話す。館内に展示された直筆の書や手紙を見ると、活字のように丁寧できれいな筆跡。肖像画を見つめ、ますます興味がわいてくる。
松阪商人と松阪木綿
伊勢まで約20キロの宿場町としても栄えた松阪。江戸で成功を収めた三井家、小津家など、商人たちの屋敷が街道沿いに並んでいた。
その一つ、小津清左衛門家の旧宅「松阪商人の館」を訪れた。客人をもてなす20あまりのお座敷や、万両箱の大きさに豪商の暮らしぶりがうかがえる。両手を広げたほどの大きなかまどは、伊勢参りの旅人に施しを行うためのもの。参拝と同じ御利益が得られるとされ、商人たちはもちまわりで炊き出しを行ったり、屋敷に旅人を宿泊させたりしたそうだ。
また、三井家の三井高利は、呉服店「越後屋」を創業。「現金掛け値なし」の新しい商売方法を生みだし、全国に展開する百貨店「三越」の前身となった。
高利をはじめ、松阪商人らによって江戸に持ち込まれたのが、松阪木綿だ。藍染めの紺色を基調にした、しま模様が特徴で、質素倹約が定められていた時代に、粋を好む江戸っ子たちの間で人気を呼んだ。
三井家の敷地跡には「松阪もめん手織りセンター」が立つ。6台の機(はた)織り機があり、反物や木綿を使った小物の販売のほか、手織り体験も人気だ。観光で訪れた女性たちと一緒に、機織り機に座らせてもらった。
織り機に張った縦糸に、横糸を右へ左へ「カラカラ」と通し、「トントン」と整えながら織っていく。「作家さんの織る音は、聞いていて心地いいんですよ」と同センターの田中茂子さん(68)。
当時、江戸からの注文を受けて、機織りを行ったのは地元の女性たち。店内に響く「カラカラ」「トントン」という音も、かつては町のあちこちから聞こえていたのだろうか……。時を経て、変わらぬ音に触れながら、無心で機を織った。
松阪市観光情報センター 松阪もめん手織りセンター |
松阪駅周辺ホルモンマップ
松阪駅周辺の12店舗を紹介。松阪牛の焼き肉などが楽しめる。持参するとソフトドリンク(一部店舗ではウーロン茶)が1杯無料になるサービスも(2015年3月末まで有効)。市観光情報センターなどで配布中。
元気の出る 松阪経営文化セミナー 市制施行10周年記念事業 日時/2015年1月19日(月)午後6時半〜午後8時半 場所/中央区立日本橋公会堂 4階ホール(東京都中央区日本橋蛎殻町1の31の1、水天宮前駅) 定員/先着400人(無料、要事前申し込み) 松阪市が開催する「松阪商人に学ぶ『松阪経営文化セミナー』」の第4回。幕末から明治時代に活躍した政治家・勝海舟の子孫、高山(こうやま)みな子さん、松阪の商人・竹川竹斎の子孫、竹川裕久さん、(株)ちくま味噌 代表取締役の竹口作兵衞さん、国分(株) 取締役の山本栄二さんらを講師に招き、勝海舟の魅力や、勝の才能を見いだした松阪商人の秘密を解き明かします。 受講希望者は、申込用紙に必要事項を記入の上、郵送かFAX、メールのいずれかで応募。申込用紙は市役所ホームページ(http://www.city.matsusaka.mie.jp)からダウンロードできます。2015年1月5日午後5時必着。 問い合わせは、市産業経済部観光交流課(TEL0598・53・4406)。 |