詩人・北原白秋が生まれ育った福岡県柳川市。白秋の詩集『思ひ出』にも歌われた街を、「どんこ舟」に揺られて巡りました。
取材・文/山田絵理佳
白秋が育った水路の街
詩人・北原白秋が生まれ育った柳川市は、「掘割」と呼ばれる地面を掘って作った水路が、網の目のように巡っている。白秋が「我が詩歌の母体である」と称した独特の景観をつくる掘割で、舟下りができると聞き、乗船場に向かった。
日よけの「ばっちょ笠」をかぶったら出発。この日の船頭は伊藤四十六さん(65)だ。コースは全長4.5キロ、70分。約20人が乗る「どんこ舟」を、5メートルのさお一本で操っていく。
舟は、水路をゆっくりと進む。自分が歩いてきた道路や民家も、水路から見ると目新しく感じる。景色に気をとられていると、「頭、気を付けてね」。伊藤さんに促され頭を低くする。コースには、頭上の橋が13カ所もあるのだ。
歌碑点在 移り変わる景色
しばらくすると、白秋の歌碑が見えてきた。大声で歌を読み上げた伊藤さんの、「はい、はくしゅう(拍手)」の声で、船上は笑いに包まれる。柳、アンズ、カラタチなど様々な植物が水路の両脇を彩り、飽きることがない。白と黒のコントラストが美しい「なまこ壁」の民家や、明治後期の建物「並倉」、伝統漁法に使う「くもで網」なども現れる。
移り変わる景色を眺めてぼんやりしていると、前方に、「うなぎ供養碑」なるものが見えてきた。柳川市は江戸時代にはウナギ料理が盛んで、今でも市内では20余りのウナギ屋が味を競う。この日の乗船はお昼時。頭の中をウナギが泳ぐ。
あっという間に終点が近づいてきた。「あめあめ ふれふれ、かあさんが……」伊藤さんが歌うと、「ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらん」。皆が続いて口ずさむ。白秋が親しんだ川の上で歌う白秋作詞の童謡は、懐かしく、気持ちがほっと安らいだ。
柳川観光開発 |
むつごろう箸(はし)置き
みやま市在住の作家が、伝統技法「蒲池焼(かまちやき)」で焼いた。ムツゴロウは、終点から車で約15分の有明海の干潟で見ることができる。「松月文人館」(TEL0944・72・6177)や、「民芸茶屋 六騎(ろっきゅ)」(TEL72・0069)で購入可。200円。