魚といえばサケのことをいい、その調理法が100種類を超えるといわれる新潟県村上市。今も厳しい寒さの中で、サケがうまみを増していきます。
取材・文/中村茉莉花
塩引き、白子の刺し身、スッポン煮、ハラコ(イクラ)丼、こぶ巻き、酒びたし、氷頭(ひず)なます……。村上には、サケの調理法が100種類以上残されている。通りにある町屋造りの家々の軒先には、塩引きにされてつるされたサケが連なる。「塩引き街道」と呼ばれる冬の風物詩。村上はサケの町だ。
魚の中の魚
村上とサケの歴史は長い。市内の三面(みおもて)川を上るサケが、平安時代に都への奉納物だったという記録も残る。江戸時代には、一人の藩士がサケの自然孵(ふ)化に成功し、藩の財政を立て直したという。
ここではサケを「イヨボヤ」と呼ぶ。「イヨ」も「ボヤ」も魚を意味する方言で、「イヨボヤ」は「魚の中の魚」の意だ。村上で魚といえばサケのこと。駅のホームでは、こいのぼりならぬ「鮭のぼり」が通年観光客を出迎える。
命を循環させる
「鮭名人」の異名を持つ吉川哲鮏(てっしょう)さん(78)は、サケ加工業を営む「味匠喜っ川」の社長。蔵では、計400畳(200坪)ほどの広さの部屋に、1千尾ものサケが、天井からつるされている。塩漬けにして一カ月干す「塩引き鮭」と、さらに半年ほど干してカラカラに乾燥させる「酒びたし」。どちらも村上市特有の調理法だ。冬の寒気と季節風が、じっくり時間をかけて味を熟成させるのだという。
ビタミンも豊富で、近年アンチエイジングにも効果があるといわれているサケ。村上の人々は、頭から尻尾、エラ、内蔵にいたるまで、全ての部位を余すことなく使い切ってきた。吉川さんによるとそれは「命を循環させること」だ。毎年11月11日の鮭の日には、「鮭魂祭(けいこんさい)」を行いサケの恵みに感謝する。吉川さんは言う。「神様が、サケの姿で我々を生かしてくれるんです」
味匠喜っ川 イヨボヤ会館 はらこ茶屋(サーモンハウス内) |
大洋盛
村上のサケ料理には村上の日本酒で。老舗・大洋酒造の「大洋盛」は手造りの特別本醸造酒。どんな料理にも合うすっきりとした味わい。
720ミリリットル872円~。
TEL(0254・53・3145)。