今年、世界遺産に登録された富士山。その近辺にある鳴沢氷穴を歩き、青木ケ原樹海を眺めてきました。樹海の名が示す「海」の成り立ちには、思いもよらぬ理由がありました。
取材・文/小森風美
ぽっかりと開いた入り口をくぐった途端、暗がりから何かが向かってきた。慌てて首を引っ込めると、コウモリが一匹、飛び去っていった。
どこまで続く? 氷の洞窟
ここは山梨県鳴沢村の鳴沢氷穴。約1150年前に噴火した、富士山の側火山・長尾山の溶岩流が作り出した環状の洞窟だ。総延長153メートルで、年間の平均気温は0~3度。夏でも氷が解けない人気のスポットで、15分ほどで一周できる。
「頭に気をつけて。しゃがんで横向きに歩くのがポイントですよ」
ネイチャーガイドの小野巌さん(80)に倣って、高さ91センチメートル、洞内で一番低い場所を慎重にくぐり抜けると、立ち入り禁止の札がかかる「地獄穴」に出た。伝説では、70キロメートル以上離れた神奈川・江の島の洞窟とつながっているそうだ。さらに進むと、氷のブロックが積み上げられた「氷の壁」と、したたり落ちる水が凍った天然の氷柱に行きあたった。氷柱は秋口は小さいが、春のピークに向けてこれから成長する。
風が育んだ原生林の海
氷穴を出て50分ほど歩くと、紅葉台展望レストハウスに着く。屋上には展望台があり、富士山が一望できる。360度の大パノラマ、青木ケ原樹海の向こうには西湖と本栖湖の湖面がきらきらと光っていた。例年は11月中旬が紅葉の最盛期で、今月末まで彩りが楽しめるという。
風に吹かれながら樹海を見ると、不思議なことにどの木も似たような高さ。小野さんによれば「偏西風の影響」という。高度1万2千メートルで吹く偏西風は地上付近で強い西風に変わる。その強風にさらされた樹木は一定の高さを保ち枝葉を広げ、全体が海のように見えるので、「樹海」というらしい。
地底の世界をのぞいたら、大地に広がる樹海と天まで届く霊峰を望む。世界文化遺産・富士山近辺の、そんな楽しみ方はいかがだろう。
ネイチャーガイドツアー |
富士山眺めちょいと一杯
江戸末期から清酒を製造する「井出醸造店」の「甲斐(かい)の開運 富士山天空絵巻 吟醸」。富士山の伏流水を使い、上空から富士山近辺を撮影したパノラマ写真が巻き付けられている。
180ミリリットル、840円。
【DATA】
富士河口湖町船津8(TEL0555・72・0006)。
インターネットによる通信販売も。
http://www.kainokaiun.jp