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ひとえきがたり

身延駅(山梨県、JR身延線)

心も温め続ける座布団

身延駅
原間さん(手前)と、毛糸集めを手伝っている永谷栄子さん(左端)。 松永駅長や川崎市から訪れた女性たちと
身延駅 地図

 1281年創建と伝えられる身延(みのぶ)山久遠(くおん)寺。日蓮宗の総本山だ。全国からの参拝者が利用する駅の待合室で、女性3人が盛り上がっていた。「座布団まで用意してくれるなんて、すてきね」。川崎市から来た手芸グループの仲間だという。

 花の形をした色鮮やかな座布団を駅に寄付し続けているのは、原間たえ子さん(86)。待合室とホームのベンチに並べる100枚近くの座布団はすべて、セーターや帽子をほどいた毛糸で手編みしたものだ。毎年10月に駅に届け、6月中旬に回収する。洗濯して繕い、だめになったものは新しい物と交換している。

 寄付を始めたのは1980年。息子が病気で入院したのがきっかけだった。付き添いのために病院に通う駅で1時間半に1本の電車を毎日待った。「雪が降って寒さに震えたときに、同じ思いをしている人がほかにもきっといると思って」。内職にしていた編み物で出た大量の捨て糸を使って編み、駅に届けた。

 それから33年。「座布団がある光景がもう当たり前になっているんです」と駅長の松永健司さん(58)は話す。続けてこられたことにいちばん驚いているのは原間さん自身だ。今では古くなったセーターなどを届けてくれる常連の参拝客もいて、「毛糸がなくなりそうになるたびに、不思議と集まってくるの」。

 「ほら見てごらん」。差し出された両手を見ると、左右で指の長さが違っていた。「右の方が長く太く、たくましくなってしまったの」。その指で編み続けることが生きがいだ。「百歳まで続けられたら、たいしたものね」

 文 中村さやか撮影 鈴木愛子

 

沿線ぶらり

 JR身延線は甲府駅(甲府市)と富士駅(静岡県富士市)を結ぶ88.4キロ。

 山梨県身延町の身延駅から身延山久遠寺へはバスで約10分。山頂にある奥之院思親閣へはロープウエーで。近くの展望台からは、白根三山など南アルプスの名峰をはじめ、甲府盆地や富士山などが望める。

 肉食を禁じた修行僧の貴重なたんぱく源とされた身延の湯葉には、約700年の歴史があるという。身延駅から車で約10分、ゆばの里(TEL0556・62・6161)ではさまざまな湯葉料理が味わえる。湯葉作り体験もできる(1000円、要予約)。

 

 
興味津々
みのぶまんじゅう
 

 みのぶまんじゅうは、久遠寺の参拝客に古くから親しまれている身延町の郷土菓子。ミソを練り込んだ皮にこしあんが包まれ、「みのぶ」の文字が押してある。さっぱりとした甘みが人気だ。身延駅前や久遠寺の周辺に専門店がある。

(2013年6月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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