読んでたのしい、当たってうれしい。

ひとえきがたり

西岩国駅(山口県、JR岩徳(がんとく)線)

表玄関の座 譲っても威風堂々

西岩国駅
錦帯橋のアーチをデザインにとりいれた重厚な玄関が、土曜の朝市に訪れる客を迎える
西岩国駅 地図

 日本三名橋の一つとも三奇橋の一つともされる錦帯橋(きんたいきょう)。岩国市内を歩けばマンホールにせんべいに、至るところで目につく。そんな地元の誇りを駅にも見つけた。オレンジ色の瓦屋根の下、石造りの玄関を飾るアーチ。橋のデザインをとりいれた駅舎は1929年に建てられた。

 「こんなに風情がある駅はなかなかないですよ」。そう誇らしげに言うのは、NPO法人西岩国・駅と広域まちづくりの会理事長の桑原克忠さん(73)。

 もともと「岩国駅」だった。岩国城の城下町に開業し、戦前は錦帯橋観光の玄関口としてにぎわった。だが、東隣の旧麻里布(まりふ)駅周辺が軍需を背景に化学繊維産業を中心として発展。42年、「岩国駅」の名前は麻里布駅に譲られた。

 重厚な造りもむなしく、92年に無人駅となった。駅舎を保存しようと2003年、地元の自治会が署名集めに乗り出した。駅舎はJRから市に無償で譲られ、「ふれあい交流館西岩国」と名付けられた。管理を委託された桑原さんらが、市民ギャラリーや農産物直売所を設けて駅を中心とした町の活性化に取り組む。

 毎週土曜の朝、わずか40分間だけ、300人近い人出で駅が活気を取り戻す。隣接する駐車場で朝市が開かれるのだ。そのにぎわいぶりに、駅舎を増築して道の駅にしようという案も出ているという。「でも、このレトロな雰囲気は絶対に壊しちゃいけない」。桑原さんが言葉に力を込めた。

 文 岩本恵美撮影 比田勝大直

 

沿線ぶらり

 JR岩徳線は岩国駅(山口県岩国市)と櫛ケ浜駅(周南市)を結ぶ43.7キロ。岩国駅は明治時代、旧山陽鉄道の「岩国駅」として開業したが、1929年の岩徳線開業に伴い、現・西岩国駅に「岩国駅」の名前を譲り「麻里布駅」に改名していた。

 5連のアーチからなる錦帯橋は西岩国駅からバスで9分。錦帯橋が架かる錦川では江戸時代から鵜飼(うか)が行われてきた。6月1日(土)~9月10日(火)、午後7時~9時、3500円。(土)(日)(祝)は午後0時半~2時にも実施、2500円。問い合わせは錦帯橋鵜飼(0827・28・2877)。

 

 
興味津々
清流光神ハクジャオー
 

 西岩国駅から車で10分ほどの吉香公園や岩国白蛇神社にはシロヘビ観覧施設がある。岩国市はシロヘビの生息地で、国の天然記念物にも指定されている。そんなシロヘビから2008年、ご当地ヒーロー清流光神ハクジャオーが誕生。今年12月には映画も公開される。

(2013年5月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

ひとえきがたりの新着記事

新着コラム