「40分間しゃべり倒します!」。高らかな宣言で口火を切った車内放送は、本当に終点まで続いた。笑いを誘うアナウンスが評判の車掌がいると聞き、声の主である落合伸哉さん(26)を訪ねた。
始発の強羅駅を発った電車は山を下り始める。「今年のぉ箱根駅伝~、この小涌谷踏切ではぁ、選手の通過を待ってぇな~んと……10分間も停車しておりましたあ~!」。次々と繰り出される車内放送は、沿線の観光案内が中心。独特の抑揚とリズムが、耳をとらえて離さない。
正面に座るご婦人と目が合った。「朝の通勤電車なら考えられないわね」と楽しそう。どの乗客も放送に耳を澄ませ、旅の仲間と笑い合う。
電車は大平台駅に到着した。山を登ってくる電車とのすれ違いで生じた停車時間は、落合さんいわく「写真撮影タイム」。車内を検札に回ればたちまち子どもたちに取り囲まれる。制帽を脱いで男の子にかぶせると、笑顔で一枚の写真に収まった。「3、4歳の時、自分もかぶせてもらってうれしかったんですよね」
それが原体験になった落合さんは、約1年半前に念願の仕事に就いた。風邪をひいて鼻声でした放送が乗客に受け、現在のスタイルにつながったという。
乗り換えの箱根湯本駅。「降りる時のぉ、おしくらまんじゅうはぁ~、ご遠慮願います!」。降りる支度を始めていた乗客の間いっぱいに拍手が広がり、車内は温かい雰囲気に包まれた。
文 岡山朋代/撮影 馬田広亘
箱根登山鉄道・鉄道線は、小田原駅(小田原市)と強羅駅(箱根町)を結ぶ15.0キロ。 12.5メートル進む間に1メートル登る80パーミルの急勾配は、車輪の力だけで登る鉄道としては日本一。前後進を繰り返しながら進むスイッチバックも全線に3カ所ある。 塔ノ沢~大平台間の出山鉄橋(早川橋梁)は、沿線随一の名所。1888(明治21)年に天竜川に架けられた橋の一部を1917(大正6)年に移設。99年に国登録有形文化財に指定された。長さ約60メートルの鉄橋を渡ると、早川のせせらぎが聞こえる。 |
マグネット連結登山電車はレトロな車両を手のひらサイズにしたおもちゃ。昭和30年代の「金太郎塗装」=写真手前=を再現した車両は、マニア心もくすぐる!? 箱根湯本、強羅、早雲山駅などで販売。通信販売も。1両300円。全4種。 問い合わせは箱根登山鉄道(0465・32・6823)。 |
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