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ひとえきがたり

渋谷駅(東京都、東急東横線)

「春の小川」の岸辺ふたたび

渋谷駅
コンクリートに囲まれた渋谷川。ふだんの水量は少なく、流れも緩慢だ
渋谷駅 地図

 地下鉄との相互直通運転に伴い昨年3月、地下に移転した駅から階段を上る。首都高速3号線をくぐると、コンクリート水路を流れる川が姿を現した。暗渠(あんきょ)となってビル街の下を流れてきた渋谷川が、ここから地上に顔を出す。

 ♪春の小川はさらさら行くよ――唱歌「春の小川」のモデルになった河骨(こうほね)川は渋谷川の源流の一つだ。駅から2キロほど離れた代々木公園の西側を回り込む流れは、渋谷川の上流と同じく今はすっかり地面の下に隠されている。だが、唱歌が発表された1912(大正元)年ごろには、名の由来となったコウホネが咲き誇る清流だった。「作詞者の高野辰之博士は家族と散歩しながら着想を得たようです」と国語学者の芳賀綏(やすし)さん(86)。

 東急電鉄は昨年1月、旧駅や線路跡などの再開発にあわせて、渋谷川を再生する計画を発表した。地上に流れ出した部分に下水を高度処理して流し、にぎわい広場や約600メートルの遊歩道を整備することで、憩いの水辺をつくる。

 「人の生活に沿って姿を変えた結果、忘れ去られてしまった川に、人々のにぎわいを取り戻したい」と都市開発事業本部の古賀良子さん。都市河川を自然な姿に戻す活動をしているNPO法人、渋谷川ルネッサンス事務局長の石井健三さん(49)は「住民が街づくりを一緒に考えるきっかけになれば」と期待する。

 東急やJRなど4社が乗り入れる渋谷駅は1日約300万人が利用する。新宿駅に次いで世界でも2番目の乗降客数を誇るターミナルのそばに、春の小川がよみがえる日は遠くない。

 文 大野紗弥佳撮影 馬田広亘

 

沿線ぶらり

 東急東横線は、渋谷駅(東京都渋谷区)と横浜駅(横浜市)を結ぶ24.2キロ。渋谷駅~代官山駅間の地下化により、東京メトロ副都心線を経由して東武東上線、西武有楽町線・池袋線との相互直通運転を開始した。

 花見のシーズンににぎわう目黒川は、渋谷駅の2駅隣の中目黒駅から徒歩1分。3.8キロの川沿いに約800本の桜が咲き競う。4月10日(木)まで「中目黒桜まつり」を開催中。6日(日)は目黒川と蛇崩(じゃくずれ)川の合流点遊び場で吹奏楽などの催しも。問い合わせは中目黒駅前商店街振興組合(03・3770・3665)。

 

 興味津々
硯(すずり)箱
 

 国文学者の高野辰之(1876~1947)は「故郷(ふるさと)」「紅葉」などの作詞でも知られる。渋谷駅から徒歩20分の白根記念渋谷区郷土博物館・文学館(TEL03・3486・2791)で硯(すずり)箱=写真=などの愛用品を展示している。100円。午前11時~午後5時。(月)休み。渋谷区東4の9の1。

(2014年4月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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