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ひとえきがたり

隼人(はやと)駅(鹿児島県、JR日豊線)

竹細工と島津の歴史をまとう

隼人(はやと)駅
竹垣にのれん。駅のイメージとかけ離れたホームで列車の到着を待つ
隼人(はやと)駅 地図

 ホーム側を含め、駅舎の外壁を南九州産の唐竹がずらりと取り巻く。その数、2000本近く。JR九州の看板列車を多く手がけてきた水戸岡鋭治さん(66)がデザインした。九州新幹線新八代駅~鹿児島中央駅が開通した2004年、新幹線で訪れる観光客に足を伸ばしてもらおうと、リニューアルされた。

 「ジャズのセッションのようにライブで決めたんです」と水戸岡さんは振り返る。関係者とともに駅前に降り立ち、そのまま打ち合わせを始めた。ふと、かつて聞いたことがある話が頭をよぎった。古代の隼人族は竹細工にたけていた……。「竹はどうでしょうか」。わずか数分でデザインの方向性が決まったという。

 コンクリート造り、平屋の駅舎はそのままに、周囲の自動販売機や広告を取り除いた。すらりと伸びた竹を並べ、壁から浮かせて打ち付けた。出入り口やトイレには、のれんを掛けた。直線が際だつシンプルでモダンな姿に生まれ変わった。屋根上の駅名看板には「丸に十の字」の島津家の家紋が掲げられた。

 「計画を聞いた時は、そば屋みたいに思われるんじゃないかと思った」と、当時駅長を務めていた黒木秀守さん(63)。地元でも竹を日常に使うことは少なくなった。「隼人の技術を原点に、こうして竹が使われたことに価値があります」

 豪華寝台列車「ななつ星」の停車駅になった。先月の運行開始に合わせ、竹をさらに約300本増やした。現駅長の山口達郎さん(54)が1枚のはがきをうれしそうに見せてくれた。列車を見送る山口さんの絵に「出発進行で『ななつ星』 つぎの旅へ走りだす」の文字。知人のイラストレーターから贈られたそうだ。

 すっくと並ぶ竹とともに、駅は新たな時を迎えた。

 文 神谷実里撮影 比田勝大直

 

 JR日豊線は、小倉駅(北九州市)と鹿児島駅(鹿児島市)を結ぶ462.6キロ。隼人駅は八代駅(熊本県八代市)と結ぶJR肥薩線の終点でもある。

 霧島神宮(TEL0995・57・0001)へは日豊線の2駅隣、霧島神宮駅から車で約10分。駅舎は2004年、水戸岡さんの手でリニューアルされた。赤を基調とし、霧島神宮を思わせる鳥居も。

 鹿児島駅から車で約5分の仙巌園(TEL099・247・1551)は島津光久によって築かれた別邸。錦江湾と桜島を景観にとりいれた庭園は、天璋院篤姫も訪れたという。薩摩切子のギャラリーショップも併設。高校生以上1000円、小中学生500円。

 古代、薩摩・大隅に住んだ隼人族。駅から徒歩10分の隼人塚史跡館(TEL0995・43・7110)には国指定史跡、隼人塚があり、約1000年前の石塔も復元されている=写真。120円、小中高生60円。午前9時~午後5時。(月)((祝)の場合は翌日)、年末年始休み。

隼人塚史跡館

  

(2013年11月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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