都心を南北に貫くＪＲ京浜東北線と都区部を一周する山手線。二つの主要路線の上をまたぐ総武線のホームは一日中、乗り換え客が引きも切らない。

　「これちょうだい」と指さす客に、店員が手際よくフタを開けたびんを差し出す。牛乳を飲み、パンを食べ終わった背中に「いってらっしゃい」の声。１９５１（昭和２６）年から続く大沢牛乳のミルクスタンドだ。びん入り牛乳を中心に約５０種類の飲料を扱う。

　大沢与志松さん（故人）が、隣の御徒町駅に次いで開業した。エレベーターがなかった昭和４０年代までは、１階の冷蔵庫からビルの５、６階に相当するホームまで、４５本入りの木製ケースを肩に担いで１日に１０往復以上したという。「運ぶ係は肩にこぶしほどのたこができていました」と３代目社長の一彦さん（６６）。

　店員の永沢光子さん（６８）は勤続２７年目。特に印象に残っているお客さんがいる。１０年ほど前、毎日のように立ち寄っていたスーツ姿の男性は、口元が不自由で牛乳をこぼしてしまう。「カウンター越しに胸元をふいてあげたりしていたんだけど、ぷっつり来なくなって」。２年ほど後、妻と２人で顔を見せた。「永沢さんにはお世話になったんだよって紹介してくれて。でもそれが最後。あいさつに来てくれたんですかね」

　ごくごくっと飲んで、「ごちそうさま」。１分足らずの出会いが、きょうも積み重なっていく。

　文　土田ゆかり／撮影　馬田広亘

ＪＲ総武線は、千葉駅（千葉市）と御茶ノ水駅（東京都千代田区）を結ぶ３８．７キロ。 　秋葉原駅の隣の浅草橋駅から徒歩３分の銭湯弁天湯（ＴＥＬ０３・３８６４・７１００、第２、４（月）休み）では不定期で落語会を開催。次回は１１月１７日（日）午後１時、橘ノ円満、橘ノ双葉が出演する。木戸銭１５００円（入浴券付き）。 　隅田川を渡った両国駅から徒歩７分の吉良邸跡（本所松坂町公園）には、１７０２（元禄１５）年１２月１４日に赤穂四十七士が討ち入った際に、吉良上野介の首を洗ったという「みしるし洗いの井戸」が残る。
駅から徒歩６分の佐久間公園は「ラジオ体操会発祥の地」。石碑＝写真＝によると１９２８（昭和３）年に簡易保険局が制定した国民保健体操がラジオで放送されて人気になり、万世橋警察署の巡査が町内会の人たちと全国に先駆けて「早起きラジオ体操会」を始めたという。