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ひとえきがたり

福島駅(福島県 、JR東北新幹線)

甲子園メロディーで発車

福島駅
8月2日朝、福島県代表、聖光学院の野球部員たちが大勢の人に見送られて甲子園へ出発した
福島駅 地図

 ホームには一年中、甲子園の曲が流れる。古関裕而(ゆうじ)作曲、全国高校野球選手権大会歌「栄冠は君に輝く」。福島市中心部で生まれ育った作曲家にちなんで、発車メロディーに採用された。

「なぜ福島駅に甲子園の曲?」。今でも時々、駅の窓口に利用客から質問が寄せられる。「あまり知られていないようですけど」と、市内で工務店を営む黒沢信之さん(42)に伝えると、「作戦通り!」とほくそ笑んだ。「『なぜ』をきっかけに福島市に興味を持ってもらえれば……。変化球的アピールですけど」

 福島青年会議所のメンバーだった黒沢さんは仲間とともに、古関の作品を発車メロディーにするようJR東日本に働きかけた。約5千曲ある古関作品から市民アンケートなどで「栄冠は君に輝く」を選び、専門家にアレンジを依頼するなど実務を買ってでた。古関の生誕百年に当たる2009年、初めてメロディーがホームに流された。「うるっときました」

 東京に住む古関の長男、正裕さん(67)は、福島駅を訪れる時に発車メロディーを意識して聴くことはないという。「発車メロディーも作曲者同様、裏方の存在だからかな」。それでも、趣味のバンド活動でこの曲を演奏するときには「やっぱり心が鼓舞されます」。

 駅はまもなく、盆休みのラッシュを迎える。帰省や出迎えの人たちでにぎわうホームを、心を鼓舞するメロディーが包み込む。

 文 塩田麻衣子撮影 馬田広亘

 

  東北新幹線は、東京駅(東京都千代田区)と新青森駅(青森市)を結ぶ713.7キロ。

 観光果樹園が集まるフルーツラインは福島駅から車で約20分。果物狩りが楽しめる。8月の旬は桃。松尾芭蕉も入浴したという飯坂温泉へは福島駅で福島交通飯坂線に乗り換えて23分。問い合わせは福島市観光コンベンション協会(024・531・6432)。

 NHKドラマ「あまちゃん」で音楽担当の大友良英さんらの「プロジェクトFUKUSHIMA!」(TEL573・0650)は8月15日(木)午後3時、福島駅東口から徒歩5分の街なか広場で納涼!盆踊りを開催。 

 古関裕而(1909~89)はラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌などで知られる。「高原列車は行く」は在来線の福島駅の発車メロディーに。福島市古関裕而記念館(TEL024・531・3012)へは福島駅からバスで約10分。直筆の譜面や愛用のオルガンなどを展示。午前9時~午後4時半。入館無料。

古関裕而

  

(2013年8月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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