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私の描くグッとムービー

オキモト・シュウさん(漫画家)
「炎のランナー」(1981年)

勝利の先にある崇高な理想

 オキモト・シュウさん(漫画家)「炎のランナー」(1981年)

 

 バンゲリスの曲に乗って陸上選手たちが浜辺を裸足で走る冒頭シーン。思い浮かべるだけでダーッと涙が出てきます。

 英国ケンブリッジ大のユダヤ人学生エイブラハムズと、スコットランドの宣教師の子リデル。物語の軸は、実在の2人の主人公による短距離走の戦いです。片方は努力肌、片方は天才肌。スポーツ漫画やドラマの世界で、王道のキャラクター設定ですよね。

 だけど、映画の主題は単に「どちらが勝つか」じゃない。オリンピックで金メダルを取ることは、彼らにとって手段にすぎない。エイブラハムズは世間のユダヤ人に対する差別と偏見を打ち砕くために、リデルは神と信仰のために。彼らは勝利の先にある、崇高な理想に向かって走るのです。

 アカデミー作品賞のほかに、衣装デザイン賞も受賞しているんですよ。1920年代の英国貴族の衣装がとてもすてき。ストレートラインの女性のドレスや、ツイードのスリーピースなんて、もうめちゃめちゃかっこいい。ステッキや麦わら帽子など細部までノーブルな趣味に走っていて。女性の趣向をくすぐる「貴族」「ドレス」……私の好きなものを寄せ集めた作品なんです。

 ワイン漫画を描いていた私にとって印象的なのは、シャンパンの入ったグラスをハードルの上に置いて練習する有名なシーン。でもあれ、カクテルグラスのように口が広いタイプですよね。香りが飛んでしまいますね。

聞き手・曽根牧子

 

  監督=ヒュー・ハドソン
   音楽=バンゲリス
  製作=英
  出演=ベン・クロス、イアン・チャールソンほか
おきもと・しゅう
 山口県生まれ。講談社「モーニング」に連載され、7カ国で翻訳されたワイン漫画「神の雫(しずく)」を作画。最新刊44巻が7月23日(水)発売。
(2014年7月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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