秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
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ビックリマーク付きの邦題に、まずひかれました。内容も極めてシンプルなのがいい。米作家リチャード・マシスンの短編小説を、当時まだ無名のスピルバーグ監督がテレビドラマ化。それを映画向けに編集したアクションサスペンスです。スピルバーグ映画が見せる「怖さ」の原点なんでしょうね。
主人公のデビッドは知人から借金を取り立てるため、砂漠のハイウェーで車を走らせていた。大型タンクローリーを追い越すと、その車に執拗(しつよう)に猛追され相手の殺意を感じ取る。慌てふためいたり、怒ったり――デビッド演じるデニス・ウィーバーだけで感情を表現しています。
絵に描いた赤い車を運転する人物は、最初に見た頃の幼い自分です。僕だったら怖くて常にバックミラーを見るのに、デビッドはそうはしない。気づくとタンクローリーが真後ろに迫り急ブレーキを踏む。ハラハラさせられっぱなしです。
印象的なのは、いい意味での粗い撮り方。タンクローリーの運転手の顔は画面に一切出さず、ごつい手と靴くらいしか現れない。どんな人なのか想起させる。猛スピードで走る2台の車はいろんな角度から撮っています。列車が通過中の踏切に車が押し込まれそうになる場面では、デビッドは恐怖でパニックになる。
創作の面白さや迷いなどが混在し、監督が映画作りを始めた頃の純粋な衝動が出ていると思う。駆け引きがエスカレートし、最後まで一瞬も安心できない。そこが魅力ですね。
聞き手・石井広子
監督=スティーブン・スピルバーグ
製作=米
出演=デニス・ウィーバー、ジャクリーン・スコットほか かめやま・たつや
1976年生まれ。中川敦子とのユニット「ツペラ ツペラ」で活動。代表作に絵本「かおノート」。イラスト、舞台美術も手がける。 |