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私の描くグッとムービー

会田誠さん(現代美術家)
「イン・ディス・ワールド」(2002年)

難民の世界 遠い日本で疑似体験

 会田誠さん(現代美術家)「イン・ディス・ワールド」(2002年)

 

 パキスタンの難民キャンプで育ったアフガニスタン人孤児が、ロンドンを目指す命がけの旅を描く作品です。

 主人公を演じた15歳の少年ジャマールは実生活も難民。その目線で死と隣り合わせの6カ国越境が描かれる。検問、銃撃、怪しい仲介人。貨物コンテナで海を渡る途中、酸欠で大人は死んでしまう。

 巧妙なセミドキュメンタリーなので、少年に感情移入します。イタリアの観光地の場面でハッとしました。少年がミサンガみたいなものを売りながら、観光客のバッグを置き引きする。スペインのマドリードで、夜中に10人ほどのグループに追いはぎに遭ったことを思い出しました。映画の主人公くらいの子もいたんです。海外旅行でずっと観光客だった自分の立場が相対化され、観光客を狙う側の事情を考えさせられました。難民問題を声高に主張しないけど、僕の不勉強な部分を疑似体験させてくれた。

 エンドロールに一番感心しました。映画の舞台となった中東各地の民家の土壁が画面に次々と現れ、欧州を含め国や地域ごとのキャストの名前が紹介される。異なる文化を認めようという多文化主義を感じる。現代美術の流れでもある。

 日本は中東、難民の世界から遠く、関心は内向き。外国人が普通に働いているのに、彼ら同士のラブストーリーを描く映画なんて聞いたことない。もし、日本が舞台の映画ができたら、エンドロールに出てきそうな壁を描いてみました。

聞き手・由衛辰寿

 

  監督=マイケル・ウィンターボトム
   製作=英
   出演=ジャマール・ウディン・トラビ、エナヤトゥーラほか
あいだ・まこと
 絵画、映像、フィギュアなど表現方法は多彩。「戦争画とニッポン」(共著)が6月発売予定。9月から新潟県立近代美術館で個展。
(2015年5月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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