東京都調布市の住宅街に、珍しい木造の音楽ホールがある。どうしてこんなところに?
仙川駅から南に商店街を10分ほど歩くと、小澤征爾ら著名な音楽家を輩出した桐朋学園の敷地が広がる。正門のそばに「桐朋学園宗次ホール」がたっている。
1952年の音楽科開設から自前のホールを持たず、学生たちの実践演習は長年、近くのホールなどに頼ってきた。校舎の老朽化や耐震対策の必要性から、校舎の建て替えを機にホールの新設に踏み切った。
ピアノやバイオリンなど楽器の多くは木でできており、楽器とホールの調和を考えると木造が最適では――。白羽の矢を立てたのが、木造建築を多く手がける隈研吾さんだった。
「建築自身を楽器のようにしたい」。隈さんが素材に使ったのは、耐火性、遮音性、構造的にも優れたヒノキとスギの板を貼り合わせた「CLT(直交集成板)」。CLTを屛風状に折り曲げてつなぐ「折板構造」にすることで、折り紙のように壁や屋根の強度を高め、柱のないホールの大空間を支える。
波形に折り曲げたCLTは、音響にもうってつけだった。何度も構造と音響の検証を繰り返し、たどり着いた折板の角度は120度。どこにいても心地よい響きを実現させた。「中は響かせたい。でも外には音を出したくない」。そんな矛盾した要求を達成するため、壁は空気層も交えて3層構造にしている。
「大きすぎる舞台」もこのホールの特徴だ。幅約17メートル、奥行き約10メートルでフルオーケストラが乗るサイズ。一方で、客席は最大234席と小ぶりで、舞台と客席の面積は1対1の割合になっている。
桐朋学園の長瀬浩平理事は「本番の大ホールさながらの舞台にあがった気持ちになってほしい」。演者である学生を主役に位置づけるが、隈さんは「それがホールの個性で、聴く人も演者のような気持ちになれる空間」と評する。
フシのないヒノキの化粧材のような仕上がりのCLTだけでなく、外壁には傾きを変えたスギ材をリズミカルに並べた。見る角度や時間帯によって、木がさまざまな表情で出迎えてくれる。
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:隈研吾建築都市設計事務所、前田建設工業・住友林業など 《最寄り駅》:仙川 |
徒歩10分のA COTE(アコテ)(☎03・6689・3119)は、スタンディングバーを併設するワイン専門店。ブドウにほれ込んだソムリエ兼店長が、自ら探し求めたワインやチーズを提供する。希望すれば「角打ち」も可能。1杯1千円前後。正午~午後9時。原則月曜日休み。