長野駅近くの住宅街を過ぎると、ほどなく車窓の景色が変わった。リンゴ畑、千曲川にかかる橋、丸みがかった山々の稜線(りょうせん)。飯山線は深い自然の中をゆっくりと走る。「まさに日本の原風景。四季折々に表情を変えます」。飯山駅駅長、清水保彦さん(59)は自信を持って話す。
島崎藤村「破戒」のモデルになった真宗寺をはじめ二十余寺が点在する飯山は雪国の小京都、寺の町と呼ばれる。「町の人は信仰心があつい」と飯山商工会議所の内田英敏さん(59)。「代々伝わる仏壇店や菓子店も多いのですよ」
駅のホームには高さ約5メートルの立派な鐘楼。鐘に撞木(しゅもく)を打ちつければ重々しい音が鳴り響く。1985年、旧国鉄長野鉄道管理局の「一駅一名物」運動で設置された「七福の鐘」だ。七回訪れれば、七つの願いがかなうという。設置当初は駅員が、朝夕に突いては安全を祈願したそうだ。やがて観光客にも人気となる一方、大みそかには数百人の市民らが二年参りの鐘を鳴らしてきた。
来春、北陸新幹線長野~金沢間が開通するのにともない、現在の駅舎から300メートル長野寄りに新たな飯山駅が開業する。それを機に地元の9市町村は、自然豊かな風土「信越自然郷」を国内外に発信していこうと意気込んでいる。清水駅長は「世界にひけをとらないリゾート地にしたい」と熱く語った。
現駅舎は取り壊される。鐘をどこに移すかは検討中だ。
文 神谷実里/撮影 馬田広亘
JR飯山線は信越線豊野駅(長野市)と上越線越後川口駅(新潟県長岡市)を結ぶ96.7キロ。寺院風の飯山駅前には2体の黒い漆塗りの仁王像が金色の目を光らせて立つ。 北飯山駅から徒歩5分の高橋まゆみ人形館(TEL0269・67・0139)は地元在住の人形作家の作品約100体を展示。山村風景に溶け込む、どこか懐かしい家族や夫婦の姿が見られる。 戸狩野沢温泉駅から車で20分、阿弥陀堂は2002年の映画「阿弥陀堂だより」で使われたロケのセットをそのまま残した。阿弥陀像も安置されている。
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駅を起点に七福神が安置されている寺社などをたどるいいやま七福神巡り。駅に隣接する観光案内処で、御朱印を押してもらう色紙=写真=を販売している(600円~)。バスで30分の布袋尊をのぞく6神は徒歩で巡れる。1時間程度。御朱印の受け付けは午前9時~午後4時。 |