当館は「戦後日本の現代美術」「20世紀以降の世界の美術(版画)」「香川の美術(漆芸・金工)」という三つの軸で作品を収集していて、特に現代美術作品は世界的にも高い評価を受けています。10月から、公募で集まった全国の中学生7人に学芸員の仕事を体験してもらい、コレクション展示を作る企画「キュレたま」による展覧会が始まります。
中学生学芸員が選んだ作品の一つが、小さな女の子を主な題材にするアーティスト奈良美智の「Milky Lake」です。ミルクの湖に腰まで浸かった女の子がたたずんでいる、孤独感も感じるような作品です。中学生学芸員たちは、怒っているようにも笑っているようにも見える複雑な表情に引かれたようです。
奈良の作品は余白が多いのも特徴です。全てを説明しない謎の部分が多く、見る人それぞれが様々な想像をしながら鑑賞できます。制作中にどんどん絵が変化していくのも特徴的です。この作品は背景が白一色でとてもシンプルに見えますが、この形に至るまでに何度も描き直しや塗り重ねをしています。一見すると簡単なイラストのようですが、ああでもない、こうでもないと丹念に時間をかけて制作されています。
常時展示している藤本由紀夫の「EARS WITH CHAIR」は、中央の椅子に座り、両横にあるパイプの穴に耳を当てて周囲の音を聞く体験型アートです。人間の耳がウサギのように長かったら音の聞こえ方が変わるのでは?という発想から作られました。
面白いのは、聞こえ方が変わるだけではなく、目で見ている光景も非現実的で奇妙な感覚になる点です。視覚には変化がないはずなのに、聴覚の変化によって奇妙な世界に連れてこられたような感覚になる。私たちの聴覚から受ける印象の大きさに気付かされる作品です。
(聞き手・笹本なつる)
《高松市美術館》 高松市紺屋町10の4(☎087・823・1711)。午前9時半~5時(特別展開催中の(金)(土)は午後7時、入場は30分前まで)。コレクション展200円。原則(月)、年末年始休み。10月12日~12月8日に特別展「五大浮世絵師展」を開催予定。
学芸員 牧野裕二さん まきの・ゆうじ 1973年京都市生まれ。関西学院大学文学部美学科卒業。95年から現職。専門は近現代美術。 |