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大分香りの博物館

新たな調合 奏でる「オルガン」

「調香台」上:縦117×横280センチ フランス 年代詳細不明、香料瓶418個が円形の台に乗る
下:縦115×横142センチ フランス 19世紀、香料瓶72個が並ぶ

 当館は香りをテーマにした珍しい博物館です。香りの歴史は古く、古代エジプトでは祈りを捧げる時などにたいていたと伝わっています。8世紀になると水蒸気蒸留器が発明され、香水が作られるようになります。はじめは天然の香料しかなく、香水は権力者など選ばれた人しか持つことができない非常に貴重なものでしたが、19世紀に合成香料ができたことによって安く大量に香料が作れることになり一気に大衆化していきました。

 「調香台」は、調香師が香料を組み合わせて新たな香りを調合する時に使います。形が楽器のオルガンに似ていることから、「オルガン」とも呼ばれます。当館には2台あり、どちらもかつてフランスで使用されていました。調香台の形やサイズは色々ですが、たくさんの香料の瓶に囲まれている大型で円形の台は、化粧品会社や香料会社でよく使われます。

 台に並んでいるのは天然香料と合成香料です。フレグランスに使用される香りの種類は5千種類以上あると言われています。調香師は事前に2千種類程度の香りを記憶していて、覚えた香りと香料を組み合わせ、半年から2年くらいかけて1本の香水をつくっていきます。

 天然香料には植物性と動物性があります。動物性香料は4種類しかありません。マッコウクジラのおなかの中にできる結石からとるアンバーグリス、ビーバーのカストリウム、ジャコウジカのムスク、ジャコウネコのシベットです。いずれもワシントン条約や動物愛護の観点から現在はとることが難しく、合成香料で代用されていることがほとんどです。当館は4種類全てそろっています。単体では決していい香りとはいえませんが、4種類中どれか一つは入れないと良い香水ができないと言われています。

 写真はアンバーグリスで、瓶の中にある黒い塊が結石です。現在は海上に浮かんできたものや海岸に漂着したものをとるしか方法がありません。香水ではエンドノートと呼ばれる最後の香りに入れられることが多く、加えるときは数千倍に薄めます。

(聞き手・中山幸穂)


 《大分香りの博物館》大分県別府市北石垣48の1(☎0977・27・7272)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。700円。第3木曜日、年末年始休み。9月23日(月)まで「香りで彩る『進撃の巨人』の世界~アニメーションと香水展~」が開催中。そのほかオリジナルの香水や匂い袋を作ることができる体験コーナーも(要予約)。

◆大分香りの博物館:https://oita-kaori.jp/

◆企画展「香りで彩る『進撃の巨人』の世界~アニメーションと香水展~」https://oita-kaori.jp/kaori_topics/topics/2845//

 

おおつる・さとし

学芸員 大津留聡さん

 おおつる・さとし 1983年生まれ、大分県出身。別府大学文学部史学科卒業、2021年から現職。

(2024年8月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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