古代の筆跡から近現代の作品まで約6千件を収蔵する当館は、書の総合美術館です。
書の作品は字が読めないとか、わからないという声をよく聞きますが、最も親しめるはずの文化ですよね。筆を持ったことがない日本人は、あまりいないでしょう? 経験があるが故に難しく考えがちですが、まずは見てみて、鑑賞の経験を積んでいくのがいいと思います。
田村空谷(1935~2019)の作品は、近づかないと読めないくらい小さな字で「よまないでください」と書いてある。しかも本来毛筆で書くべき字は活字を押し、句点(。)だけを、群青を混ぜた墨で大きく書いている。どこまでも裏をかくようなやり方が「書道って何だろう」と考えさせます。
田村はものすごく勉強熱心で、書道の歴史や技術をきちんと踏まえた書家でした。若い頃のこの作品で、自身も書道とは何かを考えたんだと思います。
「穂高」は、珍しく現代に作られた「手鑑」です。手鑑は古筆の断簡を集めた、いわば「名筆アルバム」。埼玉県の豪農の当主、松崎春川さんと長男・中正さんが収集した奈良~平安時代の古筆や古写経について、当館へ寄贈のお話があり、手鑑にすることになりました。
紙や意匠の細部まで検討し1年ほどかけて完成。「穂高」と命名したのは山好きの中正さんの発案です。松崎さん親子の思いがこもった素晴らしい作品になりました。
(聞き手・白井由依子)
《成田山書道美術館》 千葉県成田市成田640(問い合わせは0476・24・0774)。午前9時~午後4時(1月1~3日は8時半~4時半。入館は30分前まで)。2点は2月21日まで展示。500円。年内と原則(月)、1月12日休み。1月4、11日は開館。
学芸員(非常勤) 高橋利郎 たかはし・としろう 大東文化大学教授。作品収集や展示企画などを行う。専門は日本書道史。 |